一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

江戸末期、維新を成し遂げた志士たちの心の支えとなったのが佐藤一斎先生の教えであったことは国史における厳然たる事実です。
なかでも代表作の『言志四録』は、西郷隆盛翁らに多大な影響を与えた箴言集です。

勿論現代の私たちが読んでも全く色褪せることなく、心に響いてきます。

このブログは、『言志四録』こそ日本人必読の書と信じる小生が、素人の手習いとして全1133章を一日一章ずつ拙い所感と共に掲載するというブログです。

現代の若い人たちの中にも立派な人はたくさんいます。
正にこれから日本を背負って立つ若い人たちが、これらの言葉に触れ、高い志を抱いて日々を過ごしていくならば、きっと未来の日本も明るいでしょう。

限られた範囲内でも良い。
そうした若者にこのブログを読んでもらえたら。

そんな思いで日々徒然に書き込んでいきます。

第1742日 「伝統」 と 「継承」 についての一考察

今日の神坂課長は、地元の神社で開催されている流鏑馬を見学に来たようです。

次男の楽(がく)君が一緒にいるようです。

「とうさんは子供の頃、この流鏑馬に憧れていたんだ。いつか馬に乗って、馬上から的を射抜いてやるって思っていたんだよ」

「へぇー、それで実現したの?」

「いや、馬に乗る機会もないままだ」

「なんだよ。思うだけじゃなにも叶わないじゃん」

「厳しいこというなぁ。まあ、そのとおりだけどな。(笑)」
そのとき、馬に乗った小学校高学年の男の子が、ふたりの前を疾走していきました。

「昔の侍は、ああやって皆、馬を操り、馬上から弓を射ることができたんだ。すごいよな」

「うん恰好いいね。でも、なぜ馬に乗れる人が減ってしまったのかなぁ?」

「鉄砲の影響だよ。鉄砲は弓に比べて、はるかに遠くの敵を撃ち抜くことができるからな」

そうか。それで弓も廃れてしまったんだね。僕の学校の弓道部は、部員が3人しかいないよ」

「それは寂しいな。古来からある伝統的な競技だし、残ってほしいよな」

「この流鏑馬はたしかに恰好いいけど、普段の弓道はあまり興味がないな」

「それは残念。お前がここを疾走する姿を見てみたかった」

「あの弓は木でできているのかな?」

「今日のような神事で使われる弓は通常、梓弓(あずさゆみ)と呼ばれるんだ」

「梓って何?」

「一般的な木の名称だよ。ただ、現代では梓と呼ばれる木は存在していない。どの木が梓と呼ばれた木なのか、今では諸説あるようだ。いずれにしても、神事で使われる弓を一般的に梓弓と呼ぶようになったらしい」

「でも最近の弓道の弓はグラスファイバーとかカーボンファイバー製らしいよ」

「そうなのか? カーボンファイバーの弓で流鏑馬をやられたら、雰囲気が台無しだな」

「たしかに、そうだね。木製の方が雰囲気がでるなぁ」

「鉄砲が登場するまでは、馬の上で操作する武器としては、弓が一番使い勝手がよかったらしい」

「そうだろうね。刀だと敵に近づかないと斬れないし、長刀では、馬上でコントロールできないもんね」

「こういう行事を見ると、そういうことがリアルに想像できるねぇ。伝統的な行事を残すのは大変なことらしいけど、ぜひ継承して欲しいな」

「とうさん、今から練習してみたら? 諦めずにチャレンジしてみるべきじゃない?」

「今更か?」


ひとりごと

実は小生、一度も流鏑馬を観たことはないのですが、流鏑馬が実施されている神社には何度か足を運んでいます。

その場所で、目を閉じると、流鏑馬の情景が浮かび、さらに戦国時代の戦のシーンが脳裏に浮かびあがります。

古き良き時代の伝統とは、人間の歩んできた歴史の足跡でもあります。

ぜひ、末永く継承して欲しいものです。

【原文】
我が邦は古より弓箭(きゅうせん)に長じ、然も古に於いては皆木弓にて、即ち謂わゆる梓弓なりき。或いは謂う。木弓は騎上最も便なりと。須らく査すべし。〔『言志晩録』第108条〕

【意訳】
我が国は昔から弓術に長じており、しかも昔はすべて木製の弓、すなわち梓の木で作った弓であった。ある人が言ったことばに「木弓は馬上で操作するのに最も適している」とある。よく調査してみるべきだ

【一日一斎物語的解釈】
伝統の継承は、多くの無形文化における大きな課題となっている。先人が刻んできた足跡を消さないためにも、伝統の継承を考えたいものだ。


yabusame

第1741日 「技術」 と 「現場」 についての一考察

今日の神坂課長は、同業F社の市川さんとN市立大学病院内科外来前の待合いで談笑しています。

「そういえば、市川さん。御社の玉川君は元気でいいですね。ドクターにもドンドン積極的にPRをしているので、感心しますよ」

「ははは。そう見えますか? それは良かった。実はあいつ、入社当時は本当に人前で話すのが苦手でね。面接をして何を質問しても、ほとんど答えが返ってこなかったんですよ」

「へぇー、とてもそうは見えないけどなぁ。なにか、秘策でもあるの?」

「秘策はないですよ。ただ、これはマズいと思って、新人の年は毎朝、朝礼で1分間スピーチをさせたんです」

「毎朝!?」

「そう。スピーチをしたら、メンバーみんなでフィードバックをしてね。そうしたら1年目が終わる頃からメキメキ成績が上がり始めました。だから、スピーチをさせたのは良かったのかなと思っています」

「素晴らしいね。ウチもやってみようかな?」

「会話力は営業の基礎的な技術のうちでも最重要ですからね。それに、スピーチのネタを調べることで、いろいろな知識も身についていくようです」

「なるほどなぁ」

「ところで、神坂さんは課長さんですよね? 相変わらず現場でバリバリやっているんですね。うちの課長はほぼデスクに座っていて、指示をするだけですよ」

「デスクに座って指示をするだけで、組織が動くならそれが一番じゃないの? 残念ながら俺はそれが苦手でね。現場の臭いを感じていないと、まともな指示ができないタイプだからさ」

「現場の臭いか、それは重要ですよね」

「俺は、現場に行けなくなって、陣頭指揮を取れなくなったら引退するよ。デスクに座っているだけなら、ただのポンコツになってしまうからね」

「この前、オタクの善久君に会ったんですけど、神坂さんは自分が困ったときにはすぐに同行してくれるから心強いと言ってましたよ」

「善久がそんなこと言ってたの?」

「ええ、自分も将来はああいうリーダーになりたい、と言ってましたね」

「あいつ、俺にはそんなこと一度も言ってくれたことないのにな」

「照れくさいんでしょう。でも私も、陣頭指揮を執るということは大事なことだと神坂さんから教わりましたよ」

「それしかできないだけなんだけどね。でも、そう言われるとうれしいな。市川さん、コーヒーでも奢るよ!」


ひとりごと

それぞれの職種には、絶対に磨くべき技術があるはずです。

営業においては、やはり会話力・話術でしょう。

また、解決すべき課題は現場にあります。

リーダーとなり、人の上に立ったとしても、現場から遠ざからないようにすべきでしょう。


【原文】
国初の武士は、上下皆泅泳(しゅうえい)を能くし、調騎と相若(ひと)し。今は則ち或いは慣(なら)わず。恐らくは欠事ならん。軍馬は宜しく野産を用うべし。古来駿馬は多く野産なり。余は少時好みて野産を馭(ぎょ)したりしたが、今は則ち老いたり。鞍に拠りて顧眄(こべん)する能わず。嘆ず可し。〔『言志晩録』第107条〕

【意訳】
江戸初期の武士は、上役から下級武士まで皆水泳が得意であり、騎馬の術と同様に修練していた。ところが今は泳ぎを習得しない。大事なことが欠落してしまった。戦につかう馬は野生の馬を用いるべきである。昔から優れた馬の多くは野生の馬であった。私は若い頃好んで野生の馬を馭したが、今は年老いてしまった。漢の馬援が老齢をおして出陣し馬上にあって周囲にその力を示したようなことはできなくなってしまった。残念なことだ

【一日一斎物語的解釈】
営業マンの基礎的な技術として、話術を磨くことは重要であるが、これを実践している営業マンは少ない。営業マネージャーは、メンバーにしっかりと話術を磨かせることを怠ってはいけない。また、営業マネージャー自身は、自ら率先して陣頭指揮を執ることを怠ってはいけない。現場から離れれば現場が見えなくなるものだ。


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第1740日 「チーム」 と 「個人」 についての一考察

営業2課のミーティングはまだ続いているようです。

「営業マンのテリトリーというのは、各課長がそれなりに配慮して決めているんだ。もちろん佐藤部長にも相談しながらな」

「ベテランが大手施設を担当して、若手は中小病院を担当するということですか?」

「善久、それほど単純ではないよ。各メンバーの成長を意識して決めている部分もある」

「そうなんですか?」

「大手の施設でも、ベテランがフォローできる体制にあるなら、思い切って若手に任せるケースもあるぞ」

「じゃあ、私もゼンちゃんも大手を任せてもらえないのは、若いからというだけではないのですか?」

「石崎、そのとおりだ。もちろんお前たちの実力も考慮してはいるが、フォローできる体制がとれるかどうかも重要だからな」

「私たちは、まだまだ知識も技術も足りていませんからね」

「善久、それはそうだが、それ以上に足りていないのは、経験とマインド、つまり心構えだよ」

「技術だけでは売れないって、よく課長は言いますよね?」

「そうだ。心と技術と知識のバランスが良くないと売れ続ける営業人にはなれないんだ」

「そうかぁ、早く大手施設を担当したいなぁ」

「お前たちも来年は4年生になるんだよな。俺が今まで担当していた施設を任せていくつもりだよ」

「本当ですか?」

「嘘を言っても仕方ないだろう。だから、来年に向けて、テクニックだけでなく、心を磨けよ!」

「心ってどうやって磨けば良いのですか?」

「お客様のために、自分ができることを手を抜かずにやる。そういう意識で仕事をすれば、自然と心が磨かれるはずだ」

「わかりました! ゼンちゃん、手を抜かずに頑張ろうぜ!!」


ひとりごと

営業チームは常にチームセリングを意識しなければいけません。

個人ではなく、チームで商談に取り組むことで、お客様の真の課題解決のお手伝いができるのです。

そのためには、技術以上に心を磨く必要があります。

心が技術を超えない限り、技術は生かされない(中村信仁さんの言葉)

のです!


【原文】
都城に十隊八方の防火を置く。極めて深慮有り。蓋し専ら撲滅に在らずして、而も指揮操縦の熟するに在り。侯家も亦宜しく其の意を体し、騎将をして徒らに其の服を華麗にし、以て観の美を競わしむる勿るべし。得たりと為す。〔『言志晩録』第106条〕

【意訳】
江戸城下には十隊の火消組を四方八方に配備している。これは極めて深い考えがあるのだ。私が思うに、ただ火を完全に消し去ることだけでなく、戦闘時において指揮命令系統を熟達させることにあるのだろう。大名家もその意図をよく理解して、騎馬隊の大将に対し徒にその服装を華美にして、その美を見せることを競わせるようなことをしてはならない。誠に結構なことである

【一日一斎物語的解釈】
営業部隊のリーダーは、常にチームセリングを意識し、テクニックに走りすぎないように配慮すべきである。


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第1739日 「心」 と 「規律」 についての一考察

今日の神坂課長は、営業2課の課別ミーティングを開催したようです。

「O社さんがなかなか新製品を出してくれないから、最近はF社さんにやられっ放しですよ」

「石崎、メーカーさんのせいにしても何も変わらないぞ」

「でも、課長。やっぱり性能差があると難しいですよ!」

「もちろん製品の性能は、お客様が重視する大きな要素だろう。しかし、画質が違うといっても、F社の内視鏡で見えて、О社の内視鏡で見えない病変などないはずだろう?」

「それはそうですけど、やっぱり画質が良い方が売りやすいです」

「俺たちはディーラーだ。メーカーさん以上にお客様と密着して、お客様の課題解決のお手伝いをしなければならない。性能差を巻き返せるだけの関係づくりを目指そうじゃないか」

「・・・」

「それに俺たちはチームで販売をしているんだ。お前が担当する前にその施設を担当してた先輩もいる。もちろん俺にも顔があるご施設がたくさんある」

「僕たちは、ひとりじゃないんですね。そういえば、この前も課長が院長の奥様にフォローの電話を入れてくれたお陰で、なんとか商談を勝ち取ることができましたね」

「頼りになる上司がいるとありがたいだろ?」

「まあ、そうですね。ウザいときの方が多いですけど」

「なんだと、クソガキ!」

「ほら、またウザい上司が登場だ!」

「山田さん、なんとか言ってやってよ」

「わ、私ですか? 急に振られましても・・・」

「それはそうだな」

全員、爆笑しています。

「ひとつだけ言えるのは、私たちは良いチームだということです」

「山田さん、それ! それを言って欲しかったんだ。その良いチームをつくったのは誰だ、石崎?」

「えーと、山田さんですか?」
石崎君が舌を出しています。

「このガキ、本当に生意気だな」


ひとりごと

知識や技術も大事ですが、やはりその土台には心があります。

頼るべきは人の心と規律だという一斎先生の言葉は、業種を問わずどんな組織にも当てはまることではないでしょうか。

小生がずっと身を置いている営業部門においては、まさに至言ともいえる教えです。


【原文】
器械を頼むこと勿れ。当に人心を頼むべし。衆寡を問うこと勿れ。当に師律(しりつ)を問うべし。〔『言志晩録』第105条〕

【意訳】
戦争においては、武器に頼ってはいけない。人の心を頼りにすべきである。軍勢の多い少ないを問うてはいけない。軍の規律を問わねばならない

【一日一斎物語的解釈】
営業部隊の成果は、営業のツールや人数にあるのではなく、メンバーのマインドとチームワークに懸かっている。


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第1738日 「攻撃」 と 「防御」 についての一考察

今日の神坂課長は、F医科大学病院の内視鏡センターでのプレゼンの準備をしているようです。

「本田君、順番はウチが先、Y社が先?」

「まだ決まっていないと思いますが、後の方が良いですよね?」

「なぜ?」

「相手の出方をみて修正できますから」

「なるほどね。そういう考え方もあるが、俺は先手必勝を好むんだよね」

「先の方が有利だというのですか?」

「うん。先手でプレゼンをして、Y社の弱点であり当社の強みとなっているところを強調して、印象づけるんだよ」

「ほぉ」

「すると、後手のY社さんのときに、必ずドクターはそこを質問する。必然的にY社は弱みの言い訳をしなければならなくなる」

「なるほど」

「つまり、一所懸命にマイナスをゼロにする作業に追われるわけだ」

「面白いですね」

「そのためには攻めのプレゼンが必要になる。かといって、相手を露骨に誹謗中傷するのはダメだよね」

「そうでしょうね」

「兵法の鉄則は相手の背後を取ることであり、相手の守りの手薄なところを攻めることだ。これは商売でも同じだよね」

「たしかにそうですね。『孫子の兵法』はよく解説本やビジネス版の新刊が出ていますもんね」

「ははは。それを買って付け焼刃のクセに偉そうに話しているのが俺です」

「でも、おっしゃるとおりですよ。小宮先生のところにお邪魔して、順番を先にしてもらえるようにお願いしてきます」

「ぜひ、そうするといいよ。あとは、相手が突いてくると思われるウチの弱点に対してのカウンタートークをどう作り上げるかだ。言い訳をして、マイナスをゼロにするのではなく、マイナスを視点を変えて一気にプラスに変えるようなカウンターを打ちたいな」

「では、次はその点についてディスカッションしましょう!」


ひとりごと

『孫子の兵法を商売に適用した本は数多発売されています。

小生が好きなのは、NIコンサルティングという会社の社長をしている長尾一洋さんの本です。

長尾さんは自ら「孫子兵法家」と名乗り、ビジネスに『孫子』を応用しており、ブログもたくさん書いています。

小生も「論語活学人(ろんごかつがくびと)」を名乗り、『論語』をビジネスや実生活に応用するための勉強を続けています。


【原文】
敵背後に在るは、兵家の忌む所、実を避けて虚を擣(う)つは、兵家の好む所、地利の得失、防禦の形勢、宜しく此れを以て察を致すべし。〔『言志晩録』第104条〕

【意訳】
敵が自分の背後にいることは、兵法家の良しとしない所である。また敵の兵力が充実している所を避けて、手薄な所を攻めることは、兵法家の良しとする所である。地形の有利不利や防御の状況などは、こうした点を踏まえて考察することが重要である

【所感】
ライバルの動きを事前に察知し、ライバルの守りが手薄なところを攻めることが商売を成功させるポイントである。


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れみれみ