一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

江戸末期、維新を成し遂げた志士たちの心の支えとなったのが佐藤一斎先生の教えであったことは国史における厳然たる事実です。
なかでも代表作の『言志四録』は、西郷隆盛翁らに多大な影響を与えた箴言集です。

勿論現代の私たちが読んでも全く色褪せることなく、心に響いてきます。

このブログは、『言志四録』こそ日本人必読の書と信じる小生が、素人の手習いとして全1133章を一日一章ずつ拙い所感と共に掲載するというブログです。

現代の若い人たちの中にも立派な人はたくさんいます。
正にこれから日本を背負って立つ若い人たちが、これらの言葉に触れ、高い志を抱いて日々を過ごしていくならば、きっと未来の日本も明るいでしょう。

限られた範囲内でも良い。
そうした若者にこのブログを読んでもらえたら。

そんな思いで日々徒然に書き込んでいきます。

第2174日 「奇功」 と 「雅素」 についての一考察

今日のことば

【原文】
凡そ物は、奇巧賞す可き者有り。雅素(がそ)賞す可き者有り。奇巧にして賞す可きは一時の賞なり。雅素にして賞す可きは則ち無限の賞なり。真に之を珍品と謂う可し。蘭人の齎(もたら)し来る物件は率(おおむ)ね奇巧なり。吾れ其の雅致無きを知る。但だ其の精巧は則ち懼る可きの一端なり。〔『言志耋録』第246条〕

【意訳】
だいたい全ての物品には、珍しくて精巧な点を鑑賞すべきものがある。また、優雅で飾り気がない点を鑑賞すべきものもある。珍奇で精巧な品物を鑑賞するのは一時であるが、優雅で簡素な品物は無限に鑑賞することができる。こういうものを真の珍品というべきである。オランダ人が持ち込む物品は、概ね珍奇で精巧なものである。私はそこに優雅さが足りないと感じている。しかし、その精巧さには目を見張るものがあるのは否めない

【一日一斎物語的解釈】
ホンモノとは長く側に置いても飽きることのないものをいう。一時的に鑑賞して、すぐに飽きてしまうものはホンモノとは言えない。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、営業2課の石崎君と同行しているようです。

「石崎、今日はラジオの番組もつまらないものばかりだから、俺の好きな曲を聞いてもいいか?」

「はい、どうぞ」

「このUSBでつなげば聞けるんだよな。お、つながった!」

カーステレオから流れてきたのは、サム・クック(1960年代に活躍したアメリカのソウル歌手)のようです。

「へぇー、なんだかカッコいい曲ですね」

「お、洋楽を聴かないお前でもわかるか?」

「はい、声がカッコいいです」

「うん、この声は、ロッド・スチュワートも憧れた声だからな。ところで、この曲は俺が生まれるはるか前、1962年の曲なんだぞ」

「え、マジですか? 全然古さを感じなかったですけど、じゃあ今から50年以上前の曲ってことですか?」

「そう、凄いよな。たしかに今聞いてもカッコいい。こういう曲をホンモノって言うんだよ。一瞬だけヒットして、すぐに聴かれなくなるような曲はホンモノとは呼べないな」

「じゃあ、私の好きなモモクロはどうですかね? 50年後も聞かれているかな?」

「聞かれているわけねぇだろ! というか、5年後には誰も聞いてないんじゃないか?」

「そんなことないですよ! 良い曲もたくさんありますよ」

「どっちにしても50年後じゃ、俺は生きていない可能性が高いから、お前がしっかり確かめてくれ」

「そんなこと言わずに、今度は私の好きなモモクロを聞きましょうよ」

「石崎、俺が悪かった。頼むから勘弁してくれぇ~!」


ひとりごと

小生が師事している永業塾の中村信仁塾長は、よくこう言っています。

「売れる本が善い本だとは限らない。売れ続ける本が良い本だと言えるのだ」

これは楽曲にも当てはまるでしょうし、芸術作品全般に当てはまることでしょう。

ところでモモクロファンの皆さんにはここで謝罪をしておきます。

小生も若かりし頃は、松田聖子、小泉今日子といったアイドルにハマっていたのですから・・・。


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第2173日 「水火」 と 「人間」 についての一考察

今日のことば

【原文】
水火は是れ天地の大用なり。物に憑(よ)りて形を成し、定体有ること無し。近ごろ西洋出す所の奇巧大小の器物を観るに、蓋し皆水火の理を尽くし以て之を製せり。大砲気船の如きも、亦水火の理に外ならざるなり。〔『言志耋録』第245条〕

意訳
水と火は天地の余すところのない働きである。物によって形を変え、定まった形はない。最近西洋製の珍奇で精巧な大小の器物をみると、私が思うには、すべて水と火の理を究めつくして作られている。大砲や蒸気船のようなものも、水と火の理によって製造されていることに変わりはない

一日一斎物語的解釈
世の中にあるもので、水と火を利用して作られていないものはない。まさに水と火は天地の大きな恵みなのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、定時後、佐藤部長の部屋で『言志四録』について語り合っているようです。

「一斎先生が、水と火は天地の大用だと書いているのは、なるほどなぁと思いました」

「水と火についての一斎先生の言葉は、結構あるよね」

「はい。その中でも『言志耋録』第246条の言葉は面白いなぁと思ったんですよ」

「西洋の器械類はみな水と火の理を尽くして作られているというところかな?」

「そうです。当時の最新の火器といえば大砲でしょうし、水器と呼べる器械といえば蒸気船ですよね」

「なるほど、その通りだね」

「この言葉を読んで、改めて水と火によって、人間は生かされているなぁと感じたんです」

「もちろん、人間だけじゃなくて、すべての生き物がそうだろうね」

「はい。考えてみれば医療機器にも水や火の理が応用されていますよね」

「そうだね。電気メスとかウォータージェット、洗滌装置なんかもあるねぇ」

「いくら内視鏡が優れた医療機器だと言っても、洗滌装置がなければ、ここまで普及しなかったでしょうし、電気メスがなかったら治療はできませんからね」

「だから一斎先生は、水と火が天地の恵みの中でも大きなものだと言っているんだよ」

「しかし、私がこの時間になると自ら連想するのは、やっぱりお酒です。お酒も火がなければ熱燗でいただけませんね」

「ははは、突然話の方向性が変わったなぁ」

「部長、ちょっとだけちさとママのところに寄って帰りませんか?」

「そうしようか。今から行けば18時半には着けるから、30分はお酒がいただけるね」

「考えてみれば、ちさとママは、水と火の理を尽くして、最高の料理を提供してくれていますねぇ」

「では、片付けて社を出ようかね?」

「はい、私も机を片付けてすぐに1階に降ります!」


ひとりごと

水と火の力を借りなければ、現代の人間の生活はまったく機能しません。

しかし、ここまで水と火を活用できているのもまた人間だけです。

天地の大用をいかんなく活用しながら、時に手痛いしっぺ返しをくらいつつ、これからも人間は新しいものを作り続けていくのでしょう。


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第2172日 「敬意」 と 「畏怖」 についての一考察

今日のことば

【原文】
天地の用は水火より大なるは莫し。天地は体なり。満世界は皆水火なり。故に敬す可き者、水火に如くは莫く、懼る可き者も、亦水火に如くは莫し。〔『言志耋録』第245条〕

【意訳】
天地の作用は水と火よりも大きなものはない。天地そのものは本体である。現象世界のすべては皆水と火の作用である。したがってもっとも敬意を表すべきは水と火であり、また最も恐れ慎むべきものも水と火なのである

【一日一斎物語的解釈】
自然界の中で水と火こそ、もっとも敬意を表すべきものであり、恐れ慎むべきものである。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、自宅で休日を過ごしています。

「勇、そういえば14時から断水になるから、トイレに行くならいまのうちだよ」

「おい、マジか! 早く言ってよ」

「まだ5分あるじゃない」

「5分で大を済ますのは、俺には不可能だ」

「トイレで本を読んだりするからでしょ」

「書斎のない俺にとって、トイレは俺の大切な書斎みたいなものなんだ」

「ばかじゃないの!」

神坂課長は慌ててトイレを済ませたようです。

「こんなに早く大を済ませたのは人生初だな」

「大袈裟でしょ!」

「しかし、人間というのは水がなかったら何もできないような暮らしの設計をしてしまってるんだなぁ」

「そもそも人間の身体の70%は水分だっていうしね」

「たしかにそうだね。こうやって断水になってみると、水のありがたみがよくわかるな」

「大事に使わないとね」

「うん。雨が降らなきゃ水不足になるし、降り続けば水害となる。水というのは必要なものでもあり、恐ろしいものでもあるんだよな」

「それは火も同じじゃない? いまCMで、人類が火を発見してから、人間の生活が始まったみたいなのをやっているけど、その火によってこの前の火事のような怖いことも起こるよね」

「そうだなぁ」

「もっと水や火に感謝をしなければいけないな。そして大切に、丁寧に扱わないと」

「うん」

「ところで断水って何時まで」

「17時までだよ」

「長いなぁ。よりによって、ちょっと下し気味なんだよね。最悪、出しっ放しでもいい」

「ダメ! 絶対ダメ! 死ぬ気で我慢してください!!」


ひとりごと

昨日に続き、水と火についての章句です。

どれだけ化学が進歩しても、雨水がなければ人間は生きていけません。

人間の生活は、必ず雨が降るという前提のもとに作られているからです。

もし、天変地異で雨が1年間降らなかったら、宇宙に行けるほどの科学技術を持ちながら、人類は滅亡してしまうでしょう。


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第2171日 「火」 と 「水」 についての一考察

今日のことば

【原文】
水火は霊物なり。民、水火に非ざれば則ち生活せず。水火又能く人を焚溺す。天地生殺の権、全く水火に在り。〔『言志耋録』第244条〕

【意訳】
水と火とは霊妙なものである。人々は水と火がなければ生活すらできない。しかし水と火は人を焼死させたり、溺死させたりもする。天地の生殺の権限は水と火にあるのだ

【一日一斎物語的解釈】
水や火といった自然界のものを活用しなければ人は生きられない。しかし、活用を誤れば命の危険すらある。やはり人は自然界の中で生かされているのだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋にいるようです。

「昨日、ウチの近くで火事がありまして、老夫婦が亡くなるという痛ましい出来事があったんです」

「寒くなってきたからねぇ。ストーブの火が何かに燃え移ったのかな?」

「そうみたいです。ストーブの周辺が特に燃えていたらしいので」

「老夫婦だと、咄嗟に逃げることもできなかったんだろうね」

「はい。あそこのおばあちゃんは足が悪かったですからね。おじいちゃんもおばあちゃんを置いて逃げるわけには行かなかったのではないかと・・・」

「哀しい出来事だね」

「ちょっと暗くなりますね。天寿を全うできずに、焼死してしまうなんて。きっと熱かっただろうなぁ」

「我々人間は、火や水がなければ生きていけない。でも、時にはその火や水が命を脅かすこともある」

「はい。自然界にあるものは、すべてそうなのかも知れません。人間はそれを利用しているつもりでも、実は自然界の中で生かされているだけなのではないでしょうか?」

「人間は万物の霊長ではあっても、所詮自然界の中ではちっぽけな存在なのかもね」

「亡くなった老夫婦とは直接の面識はなくて、たまに道ですれ違った時に挨拶をする程度だったのですが、今晩お通夜があるそうなので、早退して参列してきます」

「うん。是非そうしてください」

「独り暮らしや老々介護の世帯が増えているので、冬はこうした事故をいかに無くしていくか。近隣住民ができることは、もっとあるかも知れませんね」

「考えさせられるね。かくいう私も、あと数年で還暦となり、高齢者の仲間入りだからね」

「まずは、私たちが自然界と上手にお付き合いしていきましょう」

「そうだね」

「では、お先に失礼します」

「お疲れ様!」


ひとりごと

山火事、洪水、津波などなど、大自然は時に猛威を振るいます。

犠牲になる方が必ずしも加害者であるわけではなく、時に大自然は人間に対し牙を向けて襲い掛かるのです。

自然の恵みに感謝しつつ、火や水の扱いには慎重の上にも慎重を期すべきだということでしょう。


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第2170日 「施し」 と 「譲り」 についての一考察

今日のことば

【原文】
天、地に資して万物泰(ゆたか)に、水、火に資して天功済(な)る。人倫五教皆此の理を具して家国治まる。須らく善く省察して自得すべし。〔『言志耋録』第244条〕

【意訳】
天は地に力を与えて万物を豊かにし、水は火と助け合って天のはたらきが完成する。儒家の教えである五倫はすべてこの理を具えているから、(これを実践すれば、)家庭も国家も治まるのである。すべてよく考察して自らその理を会得すべきである

【一日一斎物語的解釈】
人間関係は、天と地、水と火がお互いに助け合い支え合うように、相手に施し自らは譲る意識をもてば、万事うまくいくものだ。


今日のストーリー

今日の神坂課長は、大学時代の友人と食事をしているようです。

「どうした小坂、緊急事態宣言中に呼び出すなんて、深刻な問題でも起きたのか?」

「いや、そういうわけではないんだけどな。なんか、神坂と飲みたくなってな」

「要するに俺に励まして欲しいわけだな?」

「そういうこと。学生時代から落ち込んだときには、ノー天気なお前の言葉にいつも助けられてきたことを思い出してさ」

「失礼な奴だな。ノー天気はないだろう!」

「あ、たしかに。これはすまん。(笑)」

「ははは。まぁ、いいさ。で、何を悩んでいるんだ?」

「お決まりといえば、お決まりの、人間関係さ」

「出たな」

「うん。俺の上司はかなりのやり手で、こんな時期でも売り上げは絶対に落とすなと言う。一方で俺の部下は今どきの若者さ。残業はしたくないし、できればテレワークをさせろと勝手なことを言ってくる」

「要するに、板挟みなわけか?」

「そういうこと」

「俺は幸い上司には恵まれてきたからなぁ。その状況を想定するのが難しいんだけどね。人間関係を良好に保つコツは、最近いろいろ学んでいるぞ」

「マジか! ぜひ、聞かせてくれよ」

「まずは笑顔だ。明るくない奴には、不幸の神様がつきやすいからな」

「なんだ、スピリチュアルの話かよ」

「いや、笑顔は大事だぞ。だけど、もっと重要なことがある。相手に施し、自らは譲るという精神こそ、人間関係を良くする秘訣だよ」

「へぇー、お前が人に譲るなんて想像できないなぁ」

「たしかに、俺は施す方は得意だけど、譲るのは今も苦手。だから、日々修行なわけだ。一方、お前はというと、譲るのは得意中の得意だが、施すのはどうかな?」

「あ、なるほどな」

「お前から上司や部下に何を与えている? 太陽が地上の生物に日の光を与え続けるように、まずお前が何かを施すべきじゃないの?」

「まず俺から与えるのか」

「うん。本当は見返りを求めてはいけないんだけどな。きっとお前が施せば、何かを返してくれるんじゃないかと思う」

「お互いに助け合わないとなぁ」

「そのとおり! 特にお前のもっている時間を惜しげもなく部下のために使うのが一番効果的だと思うよ」

「神坂、ありがとう。やっぱりお前のノー天気なアドバイスをもらうと元気がでるよ」

「今のアドバイスのどこがノー天気なんだよ!!」

「まあまあ、ここは俺がご馳走しますので!」

「お、そういう施しは、エヴリディ・オーケーだぞ!!」


ひとりごと

私たち人間は、太陽の恵みがなければ生きていけません。

親子関係ですら、一方的な関係ではなく、親は子に恵み、子は親に成長する姿をみせてお返しをします。

人間は常に与え、与えられ、助け合っていきていかねばなりません。

そのためには、施す気持ちと譲る気持ちが必要なのではないでしょうか?


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れみれみ