一日一斎物語 (ストーリーで味わう『言志四録』)

毎日一信 佐藤一斎先生の『言志四録』を一章ずつ取り上げて、一話完結の物語に仕立てています(第1066日目より)。 物語をお読みいただき、少しだけ立ち止まって考える時間をもっていただけたなら、それに勝る喜びはありません。

江戸末期、維新を成し遂げた志士たちの心の支えとなったのが佐藤一斎先生の教えであったことは国史における厳然たる事実です。
なかでも代表作の『言志四録』は、西郷隆盛翁らに多大な影響を与えた箴言集です。

勿論現代の私たちが読んでも全く色褪せることなく、心に響いてきます。

このブログは、『言志四録』こそ日本人必読の書と信じる小生が、素人の手習いとして全1133章を一日一章ずつ拙い所感と共に掲載するというブログです。

現代の若い人たちの中にも立派な人はたくさんいます。
正にこれから日本を背負って立つ若い人たちが、これらの言葉に触れ、高い志を抱いて日々を過ごしていくならば、きっと未来の日本も明るいでしょう。

限られた範囲内でも良い。
そうした若者にこのブログを読んでもらえたら。

そんな思いで日々徒然に書き込んでいきます。

第1729日 「四角形」 と 「円形」 についての一考察

今日の神坂課長は、佐藤部長と一緒に関ヶ原歴史民俗資料館を訪れているようです。

「神坂君からここに行きたいと言われるとは思わなかったな」

「最近、合戦の本を読んでいて、天下分け目の合戦といわれた関ケ原の戦いについて勉強してみたくなったんですよ」

「この戦は意外なことに、ほぼ一日で雌雄を決しているんだよね」

「そうなんですよ! それに驚いたのです」

「事前の情報戦で勝負は決していたということだろうね」

「この時代ですらそうだったわけですから、今となっては情報がすべてと言えるかも知れませんね」

「そうだね。孫子も戦わずして勝つのが最良だと言っているよね」

「営業の世界も同じだなぁ。ガチンコの勝負にならないように、どう事前に周囲を固めるかが重要です」

「そのとおり。ただし、もし実力が拮抗した者同士が戦う場合は、陣形が重要になってくるよね」

「なるほど」

「一斎先生は、静止しているときは四角形を保ち、一気に動くときは円形の陣を敷くと良いと言っているよ」

「そういえば、甲子園でも入場時は四角を保って行進しますよね。そして試合前には円陣を組んで気合を注入する。あれは静から動への切り替えの意味があるんですね」

「おお、それは気が付かなかった。きっとそうだろうね!」

「勢いは重要ですね」

「うん。孫子は兵士を巧みに戦わせるには、丸い石を高い山のてっぺんから転げ落とすように動かせ、と言っている。メンバーをそんな風に動かせるリーダーを目指したいね」

「そうですね。そういう意味では、徳川家康という人はやはりすごいですね。静と動を見事に使い分けて、最後に天下を取り、しかもその体制
を三百年近くも続ける礎を作っているのですから」

「そうだね。馬上で天下を取ったが、馬上で天下を治めることはできないということに気づいて、いち早く儒学を導入したあたりは、まるで陣
形を四角に整えたような感じだね」

「四角と円か。なかなか深いですね。自分の組織についても、どのように導入したらよいか考えてみたくなりました」

「じゃあ、その勉強の意味でも、この資料館の展示をじっくり見てみよう!」


ひとりごと

巧みなリーダーは組織を一気に動かすことに長けています。

しかし、組織を常に動かしていては、メンバーが疲弊してしまいます。

静と動を上手に使い分け、知識を得る時間や休息の時間を創ることも、リーダーの大切な役目なのかもしれません。


【原文】
形は方を以て止まり、勢は円を以て動く。城陣・行営、其の理は一なり。〔『言志晩録』第95条〕

【意訳】
形は四角に正しく整え、勢いをもって動くときは円形になって動く。城や陣屋、行軍・兵営などの道理はこれと同じである

【一日一斎物語的解釈】
巧みなリーダーは、組織の静と動を自在に操る。動かないときは四角形のように安定させ、動くときは山上から石を転げ落とすように、組織を動かすことができる。


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第1728日 「柔軟性」 と 「リーダーシップ」 についての一考察

神坂課長が善久君にアドバイスをしています。

「そう思うならすぐに実行すべきじゃないか?」

「そうですよね」

「お前が良いと思うなら行動に移していいぞ」

「はい、そうします。ありがとうございます」

善久君が去った後、梅田君が驚いて質問しています。

「神坂課長、この前、石崎さんが同じような質問をした時は、他の先輩にも相談してから決めろと言っていましたよね? それなのに善久さんにはすぐに実行しろというのは矛盾していませんか?」

「全然矛盾していないさ。石崎はイケイケだから、少し冷静にさせなければいけない。逆に善久は引っ込み思案だから、背中を押してやらないといけないんだよ」

「でも、善久さんへのアドバイスを石崎さんが聞いたら怒りませんか?」

「怒るだろうな。(笑)」

「笑い事じゃないですよ!」

「いや、仮にあいつが怒ったとしても、俺の指示は変わらない。梅田は俺の軸がブレていると思っているんだろう?」

「いや、その、正直に言いますと、そうです」

「ははは。俺の軸は一貫した指示をするところにはないんだよ。メンバーを育てるというところに軸を置いているんだ」

「まったく真逆の指示が、二人の先輩を成長させることになるということですか?」

「そういうことだ。いいか、梅田。頭を堅くするなよ。状況に応じて真逆の考え方ができるくらい柔軟な思考を持っていた方がいいんだよ」

「こういうときはいつもこうするという考え方は堅いということですか?」

「そうだ。同じお客様にも高く売るときと安く売るときがあっていい。いろいろな状況を考えながら臨機応変な対応ができる営業マンになって欲しいんだ」

「わかりました。ワンパターンの考え方にならないように気をつけてみます!」

「お前は素直でいいな」

ひとりごと

上記のエピソードは、『論語』にある話をそのまま拝借させてもらいました。

『論語』では、子路と冉求が「良いことを聞いたらすぐに実行すべきか」と尋ねたのに対し、孔子が子路には親兄弟に相談せよ、冉求にはすぐに実行せよと答えます。

それを聞いていた公西華という弟子が、驚いて孔子に質問をします。

そのとき孔子は、神坂課長が答えたような回答をしているのです。

このくだりに小生が衝撃を受けたということは以前にも書かせてもらいました。

部下育成の軸をどこに置くべきかを教えられましたし、真逆の答えを堂々と言えるリーダーシップに感心したのです。

こういう柔軟な思考はリーダーにとって必須の条件であり、それができた孔子はやはり素晴らしいリーダーだと思います。


【原文】
乙を甲に執り、甲を乙に蔵(かく)す。之を護身の堅城と謂う。〔『言志晩録』第94条〕

【意訳】
柔は剛に執り、剛を柔に隠す。何事も一方に偏らないようにすることが我が身を守る堅い城となる。

【一日一斎物語的解釈】
ひとつの極に留まらず、対極を見据えて行動することが、自分を守ることになるのだ


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第1727日 「タイミング」 と 「静と動」 についての一考察

今日の神坂課長は、営業2課のミーティングを開催しているようです。

「我々の商売は常に競争だ。敵がいることを忘れてはダメだぞ」

「でも、敵の動きをつかむのは簡単じゃないですよね?」
石崎君が質問したようです。

「そうだな。たとえば敵がいくらで提案してきているのかがわかれば、こちらの出し値も自然と決まってくる。そこが聞き出せるかどうかは重要だ」

「私はまず素直にお客様に聞くようにしています」
本田さんです。

「うん、聞けることは聞くべきだ。聞くのはタダだからな」

「そういう人間関係を作っておくかどうかも重要ですね?」
善久君です。

「そうだな。教えてくれるかどうかは日ごろの信頼関係にかかっているかもな」

「教えてくれなければ、どうすればいいのですか?」
梅田君です。

「これまでの敵の出方から予測するしかないだろうな」

「商売って難しいですね?」

「ははは。それはそうさ。勝負にはタイミングが重要だ。動くべき時に動き、動かざるべき時にはじっと動かない。宇宙の摂理に逆らわないことが大切だな」

「なにごともそうかも知れませんね」
山田さんです。

「そうだね。今年の日本シリーズでは、ソフトバンクは動くべき時に見事に動いた。一方、巨人は動かざるべき時に動いて墓穴を掘った感じもあったねぇ」

「静と動を自在に活用できた方が勝つという良い事例ですね」

「本田さん、そうですね。じゃあ、課長。我々はソフトバンクを目指しましょう。弱い巨人を目指したら、私たちも弱くなってしまいますから!」
石崎君が意地悪そうな笑顔で神坂課長を見つめています。

「そ、それは・・・。来年の巨人はきっとやってくれるから、それについてはあと一年待ってくれないか?」


ひとりごと

勝負事については、勝ちたいという気持ちを強く持つことは重要ですが、その気持ちがプレッシャーとなって、自分の勘や行動を鈍らせてしまっては意味がありません。

タイミングを逃さずに動く、という意識が大切です。

孫子が言うように、「其の疾きこと風の如く、其の徐(しず)かなること林の如く、侵掠(しんりゃく)すること火の如く、知りがたきこと陰の如く、動かざること山の如く、動くこと雷霆(らいてい)の如し」ですね。(武田信玄の「風林火山」はこれが出典とされます)


【原文】
刀槊(とうさく)の技、怯心(きょうしん)を懐く者は衄(じく)し、勇気を頼む者は敗る。必ずや勇怯を一静に泯(ほろぼ)し、勝負を一動に忘れ、之を動かすに天を以てして、廓然太公(かくぜんたいこう)なり。之を静にするに地を以てして、物来り順応す。是の如き者は勝つ。心学も亦此に外ならず。〔『言志晩録』第93条〕

【意訳】
剣術や槍術の試合では、臆病な心を持つ者は敗れ、勇気だけを頼りにする者も敗れるものだ。必ず勇気や恐怖心を心の静けさの中に消し去り、勝敗を動きの中で忘れ去り、天意のままに動き、心にわだかまりがなく公明正大であるべきだ。心を静なる状態にするときは、まるで大地が静寂不動であるかのようにして、ひとたび物が来ればこれに順応する。この様にする者は必ず勝つ。心を修養する学問もこれと同じである

【一日一斎物語的解釈】
勝負事は恐れや慢心を抱いたときには必ず敗れる。宇宙の摂理に逆らわず、静と動を自在に制御して行動すれば、自ずと良い結果を得ることができる。これは勝負ごとに限らず、学問においても同様であろう。


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第1726日 「英気」 と 「圭角」 についての一考察

営業部特販課の雑賀さんが、懇意にしている六瀬病院の六瀬院長の部屋を訪れたようです。

「先生、このたびはレントゲン装置の買い替えを当社にご注文をいただきましてありがとうございます」

「御社にはいつもお世話になっているから当然のことだよ。もちろん雑賀君にもね!」

「ありがとうございます。私が最初にこちらにお邪魔させていただいた頃は、院長先生によく叱られました。いつ出入り禁止になるかとビクビクしていました」

「ははは。とてもそうは見えなかったけどなぁ。君は本当はやる気があるのに、それを隠そう隠そうとしていたよね?」

「お客様の前でガツガツするのはカッコ悪いことだと思っていましたから」

「やる気がなさそうな態度をとられるくらいならガツガツする営業マンの方がいいよ」

「はい、当時もそう言われました。『若いんだから熱い想いを全面に出せ』って」

「そうだったっけ? 私も若かったということだね。お恥ずかしい」

「いえいえ、すごく勉強になりました。そもそも先生に言われるまでは、私の中に熱いものがあるとは思ってもいなかったので」

「君は熱い男だよ。そこが魅力なのに、無理にクールに振舞おうとしていたもんね?」

「私は、『売りたい売りたいという営業マンは情けないなと思っていたんです。当時の先輩にはそういう人が多かったもので」

「大累君か?」

「あ、はい」

「たしかに彼も最初はそうだった。でもね、熱い想いがあるからそういう行動をしたんだ。そして彼は少しずつ学んでいった。今では、こっちが買いたいと言っても、『この機械は、先生のところにはオーバースペックだから売りません』なんて言うからね」

「そうなんです。最近はよくそういうことを言われます。お客様の課題解決のお手伝いができる商品を提案しろって」

「うん。熱い想いがあるからこそ、そうやって学べるんだよ」

「そういうものですか?」

「間違いない! ただし、熱い想いを言葉に変えるときには注意が必要だね。私たちより下手に出過ぎることもよくないけど、上から目線で提案するような物言いには腹が立つものだよ」

「口の利き方では、よく先生に叱られました」

「そうさ、君も大累君もね」

「そういう時に、六瀬先生はガツンとやっていただけるので目が覚めます」

「御社の営業マンの素晴らしいところはそこだよ。私は短気だから、すぐに厳しいことを言ってしまうよね。それで、足が遠のくディーラーさんも多いんだけど、御社の営業マンは皆、それでも訪ねてくれるよね」

「馬鹿なだけかも知れません」

「そうか、そうかもしれないな。(笑)」

「院長先生、そこは否定してください!!」


ひとりごと

若いうちから、慎重すぎる営業マンより、ガツガツ行って失敗をたくさん経験する営業マンの方が将来必ず大成します。

そのためには失敗を叱らず、想いの発揮の仕方を考えさせることが重要です。

その際、行動や言葉で相手に悪い印象を与えないように、身なりや所作については厳しく指導すべきでしょう。

椅子をしまう、靴をそろえるといった基本を徹底的に叩き込むことを疎かにしてはいけません。


【原文】
前人(ぜんじん)謂う、「英気は事を害す」と。余は則ち謂う、「英気は無かる可からず」と。但だ圭角を露わすを不可と為す。〔『言志晩録』第92条〕

【意訳】
昔の聖人は、「優れた気象は時には事をなすに当たって禍を招く」と言った。しかし私は言いたい、「優れた気象はなくてはならないものである」と。ただし、とげとげしい言動はよろしくない

【一日一斎物語的解釈】
熱い想いはなくてはならないものである。しかし、行動や言葉は慎重にすべきだ。


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第1725日 「良い組織」 と 「リーダーシップ」 についての一考察

今日の神坂課長は、同業他社K医科器械の山本さんとF大学病院の駐車場で談笑しているようです。

「神坂さん、御社の社員さんって皆元気でいいよね」

「そうですか? そう言ってもらえるとうれしいな」

「看護師さんの評判も良いよ」

「帰ったらウチの若い奴らに聞かせてやりますよ。喜ぶだろうな」

「それに引き換え、S機械さんの社員さんは暗い人が多いんだよね」

「ああ、それは私も感じますね。私は良く蔭山さんと会うんですけど、陰気臭くて話をする気にもなれないですよ」

「そうだよね。でもS機械さんの経営は順調だと聞くんだよね。無借金で財務状況は良いってね」

「あそこは大手のA医科大学病院をガッチリ押さえていますからね」

「その割にはどの社員さんも、会社が潰れそうな顔をしてるよね」

「何故なのかなぁ」

「御社と比べるとチームワークがないように感じるね。S機械さんの営業はそれぞれがバラバラに動いている。だから情報共有もできてないらしい」

「なるほど。たしかにウチの売りはチームワークかも知れません」

「会社が厳しいときには、皆でなんとかしようと思うから一致団結できるものだけど、かえって順調なときに協力的に働くことの方が難しいのかもな」

「それはありますね」

「御社も経営は悪くないんだよね? なぜ皆あんなに元気なの?」

「うーん、何故と聞かれると・・・。ああ、やはりリーダーが人格者だからだな、きっと!」

「リーダーって神坂さん?」

「まさか! 営業部の部長の佐藤です。私自身、あの人が上司じゃなかったら、一匹狼のような仕事をしていたかも知れません」

「なるほど、好調時に組織をまとめるには立派なリーダーが必要ということか。ウチは大丈夫かな」

「御社もカリスマ経営者の長瀬会長がいるじゃないですか」

「カリスマ過ぎて、我々レベルではめったに口もきけないけどね!」

「へぇ、私も一度お話をしてみたいと思っているんですけどね」

「話す機会があったら、伝えておくよ」

「マジでお願いします!!」


ひとりごと

緊急時に一致団結することはできても、好調時に仲間を思って行動することはかえって難しいのかもしれません。

しかし、そんな状態ではいつしか組織に亀裂が生まれるでしょう。

好調時こそ、チームワークを発揮すべきです。

そのためには、強いリーダーシップが必要だということでしょう。


【原文】
国乱れて身を殉ずるは易く、世治まって身を韲(さい)するは難し。〔『言志晩録』第91条〕

【意訳】
国が乱れている時に自分の身を国に捧げるということは難しいことでない。泰平の世の中において粉骨砕身して我が身を捧げることは難しい。

【一日一斎物語的解釈】
会社の状況が厳しい時に力を尽くすことはそれほど難しくない。しかし、会社が安泰の時に身を粉にして働くことは容易ではない。


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