今日の神坂課長は、佐藤部長と一緒に関ヶ原歴史民俗資料館を訪れているようです。
「神坂君からここに行きたいと言われるとは思わなかったな」
「最近、合戦の本を読んでいて、天下分け目の合戦といわれた関ケ原の戦いについて勉強してみたくなったんですよ」
「この戦は意外なことに、ほぼ一日で雌雄を決しているんだよね」
「そうなんですよ! それに驚いたのです」
「事前の情報戦で勝負は決していたということだろうね」
「この時代ですらそうだったわけですから、今となっては情報がすべてと言えるかも知れませんね」
「そうだね。孫子も戦わずして勝つのが最良だと言っているよね」
「営業の世界も同じだなぁ。ガチンコの勝負にならないように、どう事前に周囲を固めるかが重要です」
「そのとおり。ただし、もし実力が拮抗した者同士が戦う場合は、陣形が重要になってくるよね」
「なるほど」
「一斎先生は、静止しているときは四角形を保ち、一気に動くときは円形の陣を敷くと良いと言っているよ」
「そういえば、甲子園でも入場時は四角を保って行進しますよね。そして試合前には円陣を組んで気合を注入する。あれは静から動への切り替えの意味があるんですね」
「おお、それは気が付かなかった。きっとそうだろうね!」
「勢いは重要ですね」
「うん。孫子は兵士を巧みに戦わせるには、丸い石を高い山のてっぺんから転げ落とすように動かせ、と言っている。メンバーをそんな風に動かせるリーダーを目指したいね」
「そうですね。そういう意味では、徳川家康という人はやはりすごいですね。静と動を見事に使い分けて、最後に天下を取り、しかもその体制
を三百年近くも続ける礎を作っているのですから」
「そうだね。馬上で天下を取ったが、馬上で天下を治めることはできないということに気づいて、いち早く儒学を導入したあたりは、まるで陣
形を四角に整えたような感じだね」
「四角と円か。なかなか深いですね。自分の組織についても、どのように導入したらよいか考えてみたくなりました」
「じゃあ、その勉強の意味でも、この資料館の展示をじっくり見てみよう!」
ひとりごと
巧みなリーダーは組織を一気に動かすことに長けています。
しかし、組織を常に動かしていては、メンバーが疲弊してしまいます。
静と動を上手に使い分け、知識を得る時間や休息の時間を創ることも、リーダーの大切な役目なのかもしれません。
【原文】
形は方を以て止まり、勢は円を以て動く。城陣・行営、其の理は一なり。〔『言志晩録』第95条〕
【意訳】
形は四角に正しく整え、勢いをもって動くときは円形になって動く。城や陣屋、行軍・兵営などの道理はこれと同じである。
【一日一斎物語的解釈】
巧みなリーダーは、組織の静と動を自在に操る。動かないときは四角形のように安定させ、動くときは山上から石を転げ落とすように、組織を動かすことができる。