【原文】
愆(とが)を免るるの道は謙と譲とに在り、福を干(もと)むるの道は恵と施に在り。
【訳文】
過失をまぬがれる方法は、へりくだること(謙)とゆずること(譲)にある。幸福を求める方法は、人に恵むことと施しをすることにある。
【所感】
あやまちを免れるために重要なことは、「謙」つまりへりくだることと、「譲」つまり他人に譲ることにある。幸福を手に入れるために重要なことは、「恵」つまり人に分け与えることと、「施」つまり施しをすることである、と一斎先生は言います。
へりくだるということについては、以前にも紹介した『論語』顔淵第十二篇の言葉が心を打ちます。
弟子の子張が孔子に「どういう人が達人と呼べるか」と問うたのに対して、孔子が答えた言葉です。
【原文】
夫れ達なる者は、質直にして義を好み、言を察して色を観、慮りて以て人に下る。邦(くに)に在りても必ず達し、家に在りても必ず達す。
【訳文】
元来達人というのは、真正直で、正義を愛し、人の言葉を深く推察してその顔色を正しく観察し、よく考えて人にへりくだる。このようであれば国にあっても必ず通達し、家にあっても必ず通達する。(伊與田覺先生訳)
また、譲ることにかんしては、二宮尊徳翁の推譲についての解説が参考になります。
推譲 :将来に向けて、生活の中で余ったお金を家族や子孫のために貯めておくこと(自譲)。また、他人や社会のために譲ること(他譲)。(真岡市ホームページより)
ここにあるように「譲る」ことには、自譲と他譲があります。
もちろん本章で一斎先生が伝えたかったのは他譲の方でしょうが、自譲を忘れて他譲ばかりでは、いつかは破綻してしまいます。
さらに、一斎先生は幸せになるためには、恵みと施しが必要であると説きます。
ここにあげた謙・譲・恵・施はすべて与えることであって、自ら取るものではありません。
『管子』牧民篇にあるように、
取る者は、まず予(あた)ふるを知る。政の宝なり。
ということで、これは政治に限らずマネジメントについても同様でしょう。