今日のことば
【原文】
人主は最も明威を要す。徳威惟れ威なれば則ち威なるも猛ならず。徳明惟れ明なれば則ち明なるも察ならず。〔『言志耋録』第254条〕
【意訳】
人の上に立つ者は、明哲で威厳がなければならない。徳のある威厳は人を恐れさせても猛々しくはなく、徳のある明哲さは明哲であっても苛察(細かい点まで厳しく詮索すること)ではない。
【一日一斎物語的解釈】
優れたリーダーは、人を怯えさせない威厳と細部に拘らない明察さを兼ね備えているものだ。
今日のストーリー
今日の神坂課長は、佐藤部長と同行中のようです。
「部長が考える、優れたリーダーの条件って、どんなことですか?」
「難しい質問だね。先に言っておくけど、これは私ができているという意味ではなく、私自身も目指しているものとして聞いてくれるかな?」
「はい、承知しました」
「ズバリ言えば、威厳と明哲さの2つかな」
「もう少し私に分るように教えてください」
「上に立つ者は、やはり威厳を具えておくべきだと思うんだ。ただし、これは相手に恐怖心を抱かせるような威厳では駄目だけれどね」
「耳が痛いです。どうしても私の課のメンバーは、私を怖がっている気がします。これは威厳とは違うということですね」
「少なくとも、修養中の人が目指すものではないだろうね」
「むずかしいなぁ。もうひとつの明哲さというのも教えてください」
「ひと言で言えば鋭さだろうね。ただし、細かいことまで根掘り葉掘り問いただすのは、明哲とは言わないだろうな」
「大きな視点で物事を捉え、あまり細部にはこだわらないということですか?」
「うん。重箱の隅をつつくような指摘は、相手も腹に落ちにくいからね」
「たしかにそうですよね。そっちも私の場合はできていないなぁ。つい、細かいことを指摘してしまいます」
「さっきも言ったけど、私もそういうところはあると思っている。だから、真の威厳と真の明哲さを身に着けるべく、学びの途上にいるんだと思っているよ」
「私の場合は、さらにそこから相当の遅れをとって、部長の背中を追いかけている状態です(笑)」
「私の方が先にスタートしているんだから、そんな簡単に追いつかれたら困るよ(笑)」
ひとりごと
人の上に立つ者は、人を怯えさせない威厳と細部に拘らない明哲さを持つべきだと、一斎先生は言います。
どちらも徳を磨かない限り、身につかないものでしょう。
しかし、力のないリーダーほど、相手を怯えさせたり、細部を突いてマウントを取ろうとしがちです。
これはかくいう以前の小生そのものです。
そんなかりそめの威厳と明哲など、部下はとっくに見抜いていることにも気付いていませんでした。