原文】
富貴は譬えば則ち春夏なり。人の心をして蕩せしむ。
貧賤は譬えば則ち秋冬なり。人の心をして粛ならしむ。
故に人富貴に於いては即ち其の志を溺らし、貧賤に於いては則ち其の志を堅くす。


【訳文】
金持や身分の貴いのは、これを譬えてみると、春や夏の気節のようなもので、
人の心を怠けさせわがままにさせる。
貧乏や身分の低いのは、これを譬えてみると、秋や冬の時節のようなもので、
人の心を緊張させる。それで、人が富貴の地位におる時は、
その志を薄弱なものにさせ、貧賤の逆境にある時は、その志を堅固なものにさせる。


【所感】
財産が豊富で、地位も高い位置にあるときは、調子に乗って淫らな生活をし、
志を保ち続けることは難しい。逆に貧乏で地位の低いときには、
かえって人は気持ちを引き締め、志を強く認識するようになる、
と一斎先生は言います。


森信三先生は、


「逆境は神の恩寵的試練なり」


という箴言を残されています。


逆境こそが人を鍛え、人を完成させるのだと言うことです。


苦労は勝手でもしろ


と言われる所以でしょう。


松下幸之助翁も


「好況よし、不況またよし」


として、不況のときこそ、今までのやり方を見直すチャンスだと捉えています。


こうした教えを知っていれば、いざ自分が貧賤の状態に陥ったときでも、
ジタバタすることなく、しっかりと志を見据えて、一歩前に踏み出すことが
できるはずです。


富貴および貧賤に処する最善の方法は、まさに下記の『論語』のことばに尽きる
といえそうです。


「富と貴(たっとき)とは、是れ人の欲する所なり。
其の道を以て之を得ざれば處らざるなり。貧(まずしき)と賤(いやしき)とは、
是れ人の惡(にく)む所なり。その道を以て之を得ざれば、去らざるなり」


君子は、正しい道(=義)を尽くして富貴を得たのでなければ、
その状態に居座るようなことはしない。
また
正しい道(=義)に則ったにも関わらず貧賤の状態となった場合は、
無理にその逆境を脱出しようとしないものだ、という意味です。


常に正しい道に則った生活をすることを心掛けたいものです。