原文】
土地人民は天物なり。承けて之を養い、物をして各おの其の所を得しむるは、是れ君職なし。人君或いは謬(あやま)りて、土地人民は皆我が物なりと謂いて、之を暴す。此を之れ君、天物を偸(ぬす)むと謂う。


【訳文】
土地や人民は天から授かったものである。これを天から受けて養い、万物をして各々その安んずる所を得せしめるのが、人君たる者の務めである。ところが、人君が誤って、天物である土地や人民は、ことごとく自分の私有物と考えて、乱暴なことをすると、その行為は天物を盗むものというべきである。


【所感】
土地人民を私物化してはいけない。天からの授かりものとして丁重に養い育て、安定化を図ることは君としての責務である。私物化をして乱雑に扱うようでは、天からの授かりもの盗む行為に等しいのだ、と一斎先生は言います。


J・F・ケネディ大統領が自身の尊敬する人物であるとしてその名を挙げた、米沢藩主の上杉鷹山公は、次期藩主の治広公に家督を譲る際、伝国の辞として下記の三項目を申し渡したそうです。

 
一、国家は先祖より子孫へ伝え候国家にして我私すべき物にはこれ無く候
一、人民は国家に属したる人民にして我私すべき物にはこれ無く候
一、国家人民の為に立たる君にて君の為に立たる国家人民にはこれ無く候


決して民を私物化することなく、むしろ君が人民のためにあるのだ、ということを示された言葉です。


一斎先生のこの言葉を読むたびに、この上杉鷹山公のことが思い出されます。


ビジネスの世界においても、リーダーはメンバーを自分の所有物だなどと思い上がってはいけません。


メンバーのためのリーダーである、という意識をもって組織を引っ張っていくことが求められます。