原文】
小吏有り。苟(いやしく)も能く志を職掌に尽くさば、長官たる者、宜しく勧奨して之を誘掖すべし。時に不当の見有りと雖も、而も亦宜しく姑(しばら)く之を容れて、徐徐に諭説すべし。決して之を抑遏(よくあつ)す可からず。抑遏せば則ち意阻み気撓(たゆ)みて、後来遂に其の心を尽くさず。


【訳文】
下の小役人が、自分の職務に一生懸命精を出すならば、その上役の者は、励まし勧めて指導するがよい。時には道理に合わない見解があっても、しばらくこれを認めいれて、おもむろに諭していくがよい。決して頭から抑えつけてはいけない。抑制すると、元気がくじけ、たるんで、それから後は、真心を尽して職務に精を出さなくなってしまう。


【所感】
下級役人が仮にも志をもって職務に励んでいるならば、上役の者はこれを励ましながら、力を貸して導いてあげるべきである。ときには正しくない見解もあろうが、それでもしばらくはそのまま容認しつつ、徐々に教え諭していくべきである。決して上から抑えつけるようなことはしてはいけない。抑圧すればやる気を失い、心にもゆるみが出て、職務に精進することを怠るようになるであろう、と一斎先生は言います。


この章句はストレートに小生の心に突き刺さってきます。


かつてメンバーの育成に失敗した小生は、まさに抑圧スタイルの上司でした。


一斎先生は、リーダーたるもの、清濁併せ呑み、少々の間違いには目をつぶって、とにかく志(モチベーション)を高く維持させることに力点を置くべきである、と教えてくださいます。


仕事は能力(技術)が必要であるけれども、最終的には志(心)が高く保たれなければ良い成果は生まれないということですね。


小生の師匠が常に仰っているように、


心が技術を超えない限り、技術は生かされない


ということでしょう。


孔子も、弟子の仲弓から政治の要道を訪ねられた際に、以下のように答えています。


【原文】
子曰わく、有司を先にし、小過を赦し、賢才を擧(あ)げよ。(子路第十三篇)


【訳文】
先師が答えられた。
「それぞれの係の役人を先に立てて働かせ、小さな過失は大目に見て、知徳の優れた人物を挙げ用いよ」(伊與田覺先生訳)


人にはそれぞれに分(分際)があります。


つまり発揮できる能力にははじめから差異があるのは当然のことなのです。


日頃からメンバーと直接会話を交わすことで、メンバー個々の分を見極め、一人ひとりが最善を尽くしていけるように力を貸して導いていく。


それがリーダーの責務であるということを改めて教えていただきました。