【原文】
官に居るに、好ましき字面四有り。公の字、正の字、清の字、敬の字。能く之を守らば、以て過無かる可し。好ましからざる字面も亦四有り。私の字、邪の字、濁の字、傲の字。苟も之を犯せば、皆禍を取るの道なり。
【訳文】
官職にある者にとって好ましい文字が四つある。公・正・清・敬の四字である。公は公平無私を、正は正直を、清は清廉潔白を、敬は敬慎を意味する。よくこの四つの事を守っていけば決して過失(あやまち)を犯すことはない。また、好ましくない文字が四つある。私・邪・濁・傲の四字である。私は不公平を、邪は邪悪を、濁は不品行を、傲は傲慢(おごりたかぶる)を意味する。かりにもこの四つの事を犯したならば、みな禍を招くことになる。
【所感】
官職に就く者にとって好ましい文字が四つある。公・正・清・敬の四字である。この四つを守れば、過ちを犯すことはないであろう。また好ましくない文字も四つある。私・邪・濁・傲の四字である。かりにこの四つのいずれかを犯せば、みな禍を招くことになるであろう、と一斎先生は言います。
この章は比較的理解の容易な章です。
ここに挙げられている好ましい四字を守ることは、官職のような公的な職に就く人にとっては、大変重要な教えとなるでしょう。
ところがどんな徳目でも、あまりにやり過ぎるとかえって禍を招きかねません。
公平で敬い慎むというところは問題ありませんが、正邪・清濁ということになるとどうでしょうか?
あまりにも正攻法ですべてを完璧に治めようとすれば、かえって反感を買うこともあるでしょう。
白河の 清きに魚も 棲みかねて もとの濁りの 田沼恋しき
という狂歌は以前にも何度かご紹介しました。
クリーンで倹約を重んじた白河公こと松平定信公の政治が度を越していたため、庶民は窮屈さを感じ、田沼意次時代の賄賂が横行した腐敗政治がかえって懐かしく感じてしまう、という趣旨の歌です。
孔子も政治を行う時の要諦として、以下のような言葉を遺しています。
【原文】
子曰わく、千乗の國を道(みちび)くに、事を敬して信、用を節して人を愛し、民を使うに時を以てす。 (学而第一篇)
子曰わく、千乗の國を道(みちび)くに、事を敬して信、用を節して人を愛し、民を使うに時を以てす。 (学而第一篇)
【訳文】
先師が言われた。
「兵車千台を有するような諸侯の国を治めるには、政事を慎重にして民の信頼を得、国費を節約して民を愛し、民を使うのは、農閑期を利用するように心掛ける」(伊與田覺先生訳)
古来、この「敬事而信」、「節用而愛人」、「使民以時」を三事といい、敬・信・節・愛・時を五要といって、治国の要道はこの三事五要に尽きると言われてきました。
庶民(組織であれば社員さん)を愛し、使う時を大切にする心がなければ、仕組みを作ってもそれを活かすことはできないということでしょう。
世のリーダー諸氏は、一斎先生の言われる四字を大切にしつつ、一方で三事・五要を忘れずにマネジメントを行う必要があるようです。