原文】
人は往往にして不緊要の事を将(もっ)て来り語る者有り。我れ輒(すなわ)ち傲惰(ごうだ)を生じ易し。太(はなは)だ不可なり。渠(かれ)は曾て未だ事を経ず、所以に閑事(かんじ)を認めて緊要事と做(な)す。我れ頬を緩め之を諭すは可なり。傲惰を以て之を待つは失徳なり。


【訳文】
人のなかには時々さほど重要でない事を持って来て話す人がある。そうした時には、自分はいつも威張って先方を侮る態度になりがちであるが、これは大変よくないことである。その人はまだ経験も浅く、そのために急でないつまらぬ事を大切な事と思いこんでいるのである。そのような時には、穏やかな顔をし、色々喩を引いて諭してやるのがよい。威張った態度で彼に応対することは、自分の徳を損うことになるわけである。


【所感】
得てしてそれほど重要でないことを語る人がいると、私はその人を傲慢で馬鹿にしたような態度をとってしまうが、これは非常に良くないことである。その人はまだ経験が不足しているために、つまらぬ事を重要なことだと理解してしまっているのである。そういう人にはなごやかに諭してあげるべきである。傲慢な態度を取ることは、己の徳を失うことなのだ、と一斎先生は言います。


リーダーにとっては耳の痛い章句ではないでしょうか?


森信三先生もこう仰っています。


すべて人間というものは、目下のものの欠点や足りなさというものについては、これを咎めるに先立って、果たしてよく教えてあるかどうか否かを顧みてみなくてはならぬのです。したがって目下の物の罪を咎め得るのは、教え教えて、なおかつ相手がどうしてもそれを守らなかった場合のことです。


もちろん社会人ともなれば、教えてもらっていないから許されるということではいけませんが、指導する側の人間は矢印を自分に向けるという意味で、こうした箴言を学んでおくべきなのでしょう。


若い社員さんには多くの経験を積んでもらう必要があります。


小生は勤務先にて、リーダーから新卒社員さんまでの全営業社員さんを5つの階層に分けて毎月一回研修を実施しています。


昨日の若手社員研修(入社4年目〜6年目の社員さん対象)でのテーマが「挑戦」でした。


この研修で小生は、


「失敗を恐れるなというけれど、それは無理だよね」


「だから、『やる』・『やらない』で迷った時は、『やる』という選択肢を無条件で選ぼう」


「そして、『やる』と決めたとしたら、まず何から始めるべきかを考えて、すぐにそれを実行に移そう」


といった話をしました。


リーダーの役割のひとつが、このメンバーに挑戦の機会を与え、背中を押すことだと思います。


そして経験不足が原因で失敗をしたのであれば、一斎先生の仰るように、優しく和やかに諭してあげればよいのでしょう。


そうすれば失敗から多くのことを学び、挑戦し続ける社員さんとなってくれるはずです。