原文】
人は地に生まれて地に死す。畢竟地を離るる能わず。故に人は宜しく地の徳を執るべし。地の徳は敬なり。人宜しく敬すべし。地の徳は順なり。人宜しく順なるべし。地の徳は簡なり。人宜しく簡なるべし。地の徳は厚なり。人宜しく厚なるべし。


【訳文】
人間はこの大地で生まれ、そして大地で死んで土となる。つまり、この大地から離れることはできない。それで、人間はこの大地の徳(恩恵)をよく考えるがよい。地の徳には次の四つがある。すなわち、地の徳は敬であるから、人は敬(己を慎み人を恭(うやま)う)を守るのがよい。地の徳は順であるから、人は順(柔順)であるのがよい。地の徳は簡であるから、人は簡(単純・大まか)であるのがよい。地の徳は厚であるから、人は人情を厚くするのがよい。


【所感】
人は地上で生まれ地上で死ぬ。最後まで地上を離れることはない。よって人間は地の四つの徳を身につけるべきである。四つの徳とは敬・順・簡・厚である。つまり人間は、よく慎み、よく従順であり、よくおおらかあり、よく温厚であるべきである、と一斎先生は言います。


易経において、天は乾の卦、地は坤の卦として表わされます。


そして坤の卦の説明として、様々な箇所に分散しておりますが、ここにあげるような敬・順・簡・厚がその特徴として記載されています。


大地は天からの恵みを受けるところであることから、地の利とは相手を立てる徳を指すとみて良いでしょう。


敬とは、己を空しうすることであり、順とは相手に対して従順であること、さらに何事も複雑に考えずにおおらかであって、人に対して温厚であるという四つの徳こそが地の徳だと、一斎先生は仰っております。


この地の徳を発揮するには、積極的な受け身の姿勢で相手と接することが重要ではないでしょうか。


積極的な受け身とは、相手の良い点だけを見て、それを丸受けに受け取って我が身に活かす姿勢です。


この姿勢を貫くことができれば、相手を敬し、従順でいることも可能になるでしょうし、おおらかに人情厚く接することも可能になるはずです。


吉田松陰先生のお言葉に、


地を離れて人なく、人を離れて事なし。


とあります。


常に大地の恩恵を受ける有難さを噛みしめつつ、大地のように人と交わる人間でありたいと思います。