【原文】
人の世を渉るは行旅の如く然り。途に険夷(けんい)有り、日に晴雨有りて、畢竟避くるを得ず。只だ宜しく処に随い時に随い相緩急すべし。速やかならんことを欲して以て災を取ること勿れ。猶予して以て期に後(おく)るること勿れ。是れ旅に処するの道にして、即ち世を渉るの道なり。
【訳文】
人が世渡りすることは、あたかも旅行するようなものである。旅行の途中には、険阻な所もあれば平坦な所もあり、また日によっては、晴天もあれば雨天もある。結局、これらは避けることができない。旅行者は、ただ険易な所、晴雨の時に従って、旅程をゆっくりしたり、急いだりするがよい。あまり急ぎ過ぎて災害を受けてはいけない。また、あまりぐずぐずして予定の期日に後れるような事があってはいけない。これが旅をする仕方であり、また世渡りの道でもある。
【所感】
人が世の中を渡っていくのは旅をすることに似ている。途中には険阻な所や平坦な所がある。また晴れの日も雨の日もあって、結局これを避けることはできない。ただ時と状況に応じて緩急を意識するべきである。急ごうとして禍を被ることのないようにせよ。またゆっくりし過ぎて期日に遅れるようなことがあってもいけない。これが旅の仕方であり、世渡りの道である、と一斎先生は言います。
昔から人生は長い旅に喩えられてきました。
人生、山あり谷あり、と。
この章句を読んで思い出されるのは、徳川家康公が書いたと言われる『徳川家康公遺訓』でしょう。
名文ですので、ここに全文を掲載しておきます。
人の一生は重荷を負うて
遠き道を行くが如し
急ぐべからず
不自由を常と思えば不足なし
心に望み起らば
困窮したるときを思い出すべし
堪忍は無事長久の基
怒りは敵と思え
勝つことばかり知りて
負けることを知らざれば
害その身に至る
己を責めて
人を責めるな
及ばざるは
過ぎたるより勝れり
この遺訓、ならびに上記の一斎先生のことばから読み取ることができる教訓は以下のようなものでしょうか。
1.ありのままを受け入れる。
2.矢印を自分に向ける。
3.少し損をする生き方をする。
この3ヶ条を意識すれば、人生を大過なく過ごすことができるはずです。
それにしても小生は、ほんの最近までこの3ヶ条のすべて逆をやってきたように思います。
つまり、
自分の境遇を歎き、すべて他人のせいにし、少しでも他者より先んじることを意識して生きてきました。
せめてこれからの残りの人生は、上記3ヶ条を心に刻んで生きていきます。
せめてこれからの残りの人生は、上記3ヶ条を心に刻んで生きていきます。