【原文】
大学は、誠意に好悪を説く自(よ)り、平天下に絜矩(けっく)を説くに至る。中間も亦忿懥(ふんち)四件、親愛五件、孝弟慈三件、都(すべ)て情の上に於いて理会す。


【訳文】
『大学』という書物は、誠意や好悪の情を説くことから始めて、家国や天下を治めることや己の心をもって人心を推し度(はか)る「恕」まで説いている。その中間においては、感情について忿怒(ふんど)・恐懼・好楽・憂患の四件、親愛・賤悪・畏敬・哀矜・敖惰(ごうだ)の五件、孝・弟・慈の三件などを説いているが、それらは総て情の上から説いたものといえる。


【所感】
儒学の経典である『大学』という書物には、意を誠にすることや悪臭を悪(にく)み好色を好むことから始めて、天下を平らかにするには国を治めるべきことや自分の心を尺度として人の心を知ることまでが説かれている。その間には、身を修めるために正すべき忿怒・恐懼・好楽・憂患の四件があること、家を斉(ととの)えるためには、親愛・賤悪・畏敬・哀矜・敖惰の五件によって心が偏ることのないようすること、また国を治めるには孝・弟・慈の三件が必要であることを説いている。これらはすべて情の面からとりあげられている、と一斎先生は言います。


四書五経のひとつであり、儒学の重要な経典のひとつである『大学』の冒頭部分に触れた章句です。


ご存知のように二宮金次郎少年が背中に薪を背負って歩きながら読んでいた本がこの『大学』だと言われています。


格物・致知・誠意・正心・修身・斉家・治国・平天下の八つの項目は、『大学』の八条目と呼ばれており、特に後半の四つ、修身・斉家・治国・平天下は儒教の根本理念として広く知られています。


すなわち、世の中を平らかにするためにはまず国を治めることが必要であり、国を治めるためにはその前に家を斉えることが必要であり、家を斉えるためにはその前に己の身を修めることが必要であるとして、修身の重要性が説かれているのです。


ここに挙げられた忿懥四件、親愛五件、孝弟慈三件などは、この修身・斉家・治国・平天下の解説の中で出てくるものです。


国を治め、世の中を泰平に導くといった大きな仕事も結局は人間の情(心)をいかに正しく保つことができるかどうかに懸かっているのだ、と一斎先生は看破しておられます。


組織マネジメントにおいても、メンバーの心を正しい方向に導くことが最重要課題であり、そのためにはリーダー自身がまずその身を修めることから始める以外に良い方法はありません。


修身こそ世の中のあらゆる仕事を成功に導くための最も優れた、そして最も難易度の高い取り組みだということでしょう。


『論語』と共に『大学』も、現代のリーダー諸氏必読の書だと言えます。


まだ読まれていないという方は急ぎお読みください!