【原文】
酒は是れ水・火の合せるものにて、其の形を水にして、其の気を火にするなり。故に体軀之を喜ぶ。烟・茶は近代に起る。然るに人も亦多く之を好む。茶は能く水の味を発し、烟は能く火の味を和するを以てなり。然るに多く服す可からず。多く服すれば則ち人を害す。況や酒に於いてをや。害尤も甚だし。余は烟・茶を嗜む。故に書し以て自ら戒む。


【訳文】
酒というものは水と火が合してできあがったもので、その形は水であって、その気は火のようなものである。それで、人間の身体は酒を好むのである。煙草や茶は近代に用いられるようになったが、人はこれも大変好んで用いている。茶はよく水の味を現わし、煙草はよく火の味に和するからである。しかし沢山飲んではいけない。沢山飲めば人体を害する。まして酒においてはなおさらのことで、その害は甚だしい。自分(一斎)は、平生煙草を吸い、お茶を飲んでいる。それで度を過ごさぬよう以上のことを記して自戒としている。


【所感】
酒は水と火との合作物であり、形は水で、気は火のようである。それ故に人間の身体は酒を喜ぶ。煙草や茶は近代になって用いられるようになったが、人の多くがこれを好む。茶は水の味を現し、煙草は火の味と和す。しかしながら多く飲んではよくない、多く飲めば必ず人間を害す。まして酒においては最も甚だしい。私は煙草や茶を嗜むが、だからこそこれを記述して戒めとしているのだ、と一斎先生は言います。


嗜好品についての一斎先生の見解です。


小生は幸いと言いましょうか、酒も煙草も嗜みません。
あえて言えば、コーヒーを日に3〜5杯飲みますので、これが上記の茶に該当するでしょうか。


一斎先生が仰るまでもなく、これら嗜好品が身体によくない影響を与えることは衆知の事実です。


なかでも煙草はよろしくないですね。


副流煙によって周囲の人の身体にまで悪影響を与えるわけですから。


一方、お酒については、


酒は百薬の長


とも言われます。


小生のような下戸は、酒を楽しむことができませんので、もしかしたら人生の大いなる悦楽を逸しているのかも知れません。


『菜根譚』という古典に次の有名なことばがあります。


【原文】
花は半開を看、酒は微酔に飲む。


【訳文】
花を観るなら五分咲き、酒を飲むならほろ酔いかげん。このあたりに最高の趣がある。(守屋洋先生訳)


何事もほどほどが一番良いようです。