【原文】
子を教うるには、愛に溺れて以て縦(じゅう)を致す勿れ。善を責めて以て恩を賊(そこな)う勿れ。


【訳文】
子供を教育するには、盲目的にかわいがって、わがままにさせてはいけない。また、善行をしなさいと子供に強いることによって、親子の情愛を損うことがあってはいけない。


【所感】
子供を教育する際には、溺愛して放任してはならない。また善い行いを強要して親子の恩愛の情を損なうようなことがあってもいけない、と一斎先生は言います。


これは大変シンプルかつ有用な子弟教育の教えですね。


この章の後半部は、『孟子』離婁章句下篇にある、


善を責むるは朋友の道なり。父子善を責むるは恩を賊ふの大なるものなり。


を参考にしていることは間違いないでしょう。


ここで興味深いのは、朋友(共に学ぶ友人)の間では、互いに善を行うことを良しとしている点です。


友人同士では善を勧めてもよいが、親子の間ではやめておいた方がよい、と一斎先生は仰っています。


これについて安岡正篤先生は、以下のように仰っています。


父と子の関係は微妙で、師弟や朋友の間と違って骨肉、すなわち血を分けた間柄であり、より多く自然的関係であるから、情愛・恩愛が本領であって、理性による批判とか抑制である正とか善とかを建前にすべきではないからである。(『孟子』より)


親子の間では、溺愛もいけないが、さりとてあまりに為すべきことを強要してしまうのも宜しくない。


ここら辺に親子間の微妙な真情を読み取らねばいけません。