【原文】
人、或いは性迫切にして事を担当するを好む者有り。之を駆使するは卻って難し。迫切なる者は多くは執拗なり。全きを挙げて以て之に委ぬ可からず。宜しく半ばを割きて以て之に任ずべし。


【訳文】
人には、性質がせっかちであって、そのうえ何事でも自分で引受けてやることの好きな人がいる。このような人を使うのは、かえって難しい。せっかちな人はたいてい片意地の人であるから、仕事を全部任すことはできない。半分ほど任しておくがよい。


【所感】
人にはせっかちでかつ自ら背負い込むことを好む人がいる。こういう人はかえって扱いづらい。せっかちな人は大概片意地をはるものである。こういう人にすべてを任せることはできない。半分ほどに分けて任せるのが良い。


この章はこれまで知らなかった章ですが、リーダーシップを学ぶ上でとても示唆に富んだ章ですね。


特に自分で背負い込むタイプの人は危険です。


こういう人は、事が小さいうちは何とか自分で火消しをしようとして、結局事が大きくなって手をつけられなくなってからSOSを発信してきます。


それを防ぐためには、全責任を負わせずに、責任分担をシェアさせて、一部を任せるくらいがちょうど良いと一斎先生は仰っています。


せっかちと言えば、孔子の門人にあっては子路の右に出るものは居ないでしょう。


子路は孔子より9歳年下の弟子で、性格は直情型、たとえ相手が孔子であっても自分の主張を堂々とぶつけてきます。


ところが自分が間違っていたと悟ると、瞬時に反省ができるのが子路の偉大なところでしょう。


『論語』には、孔子と子路のこんな微笑ましいやり取りがあります。


【原文】
子曰わく、道行われず、桴(いかだ)に乗りて海に浮かばん。我に從わん者は、其れ由(ゆう)なるか。子路之を聞きて喜ぶ。子曰わく、由や勇を好むこと我に過ぎたり。材る所無からん。(公冶長第五)


【訳文】
先師が言われた。
「国に道が行われていないので、私は桴に乗って海外へ行こうと思う。私に従う者は、由(子路の名)お前だなぁ」
子路はこれを聞き得意になって喜んだ。
先師が言われた。
「由はたしかに私より勇を好むが、只いかだの材料の調達は、全く考えていないんじゃないか」


国に道が行われない状況を深く嘆いた孔子は、思わず筏で遠い海の向こうにでも行ってしまおうかと漏らし、そのときに付いて来るのは無謀な子路くらいだろうなと言います。


ところが単純な子路があまりにも喜んだのを見て、孔子はしかしせっかちで短絡的なお前では筏を作る術がわからんだろう、と言ってからかったというエピソードです。


暴虎馮河(素手で虎と戦い、素足で氷の上を歩く)の人物とは与しないと言って、子路の無謀な勇気をたしなめた孔子ですから、


急いては事を仕損じる


という思いもあったのでしょう。


いずれにしてもこうした人物がいたら、仕事を分割して半分だけ任せるという解決策はとても参考になりますね。