【原文】
禹は吾れ間然するところ無し。飲食・衣服・宮室、其の軽重する所を知る。必ず是の如くにして、財も亦乏しからず。


【訳文】
帝王禹のなした事は、一言も非難すべき所が無い。すなわち、自分の飲食は粗末にして、祖先の祭礼には供物を豊富にして孝道を尽くし、日常の衣服は粗末にして、祭服を立派なものにし、住居は質素にして、農耕に力を尽くすなど、よくその軽重を弁えていたことが知られる。必ずこのようにすれば、財もまた不足することがなく、経済面もうまく行く。


【所感】
「禹王の業績については非難の口をはさむ余地が無い」と『論語』にもあるように、禹王は飲食・衣服・宮廷を質素にし、物事の軽重をよく理解していた。このようにしていれば、財貨が不足することはない、と一斎先生は言います。


ここも『論語』からの引用です。


【原文】
子曰わく、禹は吾間然すること無し。飲食を菲(うす)くして孝を鬼神に致し、衣服を悪しくして美を黻冕(ふうべん)に致し、宮室を卑しくして力を溝洫(こうきょく)に盡(つ)くす。禹は吾間然すること無し。(泰伯第八)


【訳文】
先師が言われた。
「禹の人柄については非のうちどころがない。自分の飲食を簡素にして、先祖の霊や天地の神を丁重に祭った。衣服は粗末にして祭礼の時につける前だれとかんむり即ち祭服を美しくした。自分の住居を質素にして、灌漑用の水路の構築に力を尽くした。まことに禹の人柄に対して自分は一点の非のうちどころもない。(伊與田覺先生訳)


伝説の皇帝禹は、聖人として崇められており、特に治水に関して功績があり、舜帝から皇位を譲られて夏王朝を建てたことで知られています。


国を富ましめるには、まず自ら質素な生活を心がけねばならないという教えでしょう。


これを読んですぐに思い出すのが、上杉鷹山公です。


上杉鷹山公は、没落したかつての名門上杉家の再興のために米沢藩の藩主となり、自ら木綿の服をまとい、一汁一菜を奨励、各家の垣にはウコギを植えさせ、飢饉のときにはそれを食べて飢えをしのぐように手を打ったことはご存知のとおりです。


これにより、実際に大飢饉が発生した際にも、米沢藩からはひとりの餓死者も出さなかったと言われています。


そういう意味では名経営者ともいえる上杉鷹山公については、かつてJ・F・ケネディ大統領が最も尊敬する日本人としてその名を挙げたことでも有名ですね。


この教えは、企業のトップに立つ人や、組織のリーダー諸氏の襟を正すのに十分なものでしょう。


全社員さんで、難局を乗り越えようとしているときに、トップが高級料亭で食事をしているようなことではどうしようもありません。


まずわが身を正せ、ということです。


この言葉をあなたに贈ります、舛添要一様。