【原文】
学人徒に訓註の朱子を是非して、道義の朱子を知らず。言語の陸子を是非して、心術の陸子を知らず。道義と心術とは、途(みち)に両岐無し。
【訳文】
一般の学者達は、経書の訓詁注釈的な面における朱子を批判するが、道義的な面における朱子を存知していない。末梢的な言語の面で陸子を批評するが、心理的な面における陸子を存知していない。道義的な面と心理的な面とは、本質的には一つなのである。
【所感】
世間の学者たちは、やみくもに朱子の訓詁註釈的な面の是非ばかりに終始して、道義・道徳面の朱子の論説を理解しない。また陸象山の言語の末節ばかりに注目し、心・精神面の論説を理解しない。道義・道徳と心・精神とは、一本の道なのだ、と一斎先生は言います。
世の学者先生たちは、ある先哲の特徴的な一面だけをクローズアップして、他の側面を見落としがちであると一斎先生は同業者の傾向を嘆いています。
また、自説を主張する余り、他人の説をよく吟味もせずに否定をしたりすることも大いなる問題点だと捉えているようです。
ところで、これは論説だけに留まることではありませんね。
どんな人にもその人なりの性格的な特徴はあるものの、必ず良い面と悪い面を持っています。
ところが人の上に立つリーダーが、メンバーの欠点ばかりに目をやり、良い点を見逃してしまうことがあります。
『論語』為政第二篇に以下のような言葉があります。
【原文】
子曰わく、君子は周して比せず。小人は比して周せず。
【訳文】
先師が言われた。
「君子は、誰とでも公平に親しみ、ある特定の人とかたよって交わらない。小人は、かたよって交わるが、誰とも親しく公平に交わらない」(伊與田覺先生訳)
本日、人間塾 in 東京の特別企画として開催された映画「日本一幸せな従業員をつくる」上映会および柴田秋雄さんの講演会に参加しました。
赤字だった弱小ホテルを、人に投資することで見事に立て直し、黒字化した伝説の経営者である柴田さんの言葉は『論語』そのものでした。
柴田さんはホテルで働く社員さん、契約社員さん、アルバイトさんをすべて従業員と呼び、一対一、個と個で接しました。そこにはまったくかたよりがありませんでした。
経営者(総支配人)が徹底的に従業員さんの幸せを考えて行動することで、結局、従業員さんたちはお客様を大切にするようになり、多くのファン、リピーターを獲得しました。
偏見を捨てること、美点を凝視すること。
この2点の大切さは、本章の一斎先生の言葉からも、『論語』からも、そして本日の柴田秋雄さんのご講演からも感じ取ることができました。
実は小生も個対個が重要であるとの思いから、勤務先の営業社員さん約100名の日報を毎日チェックし、その4割ほどのメンバーにコメントを入れています。
毎日3時間程度要します。
正直に言って、最近はしんどさを感じてしまい、チェックする日報対象者を直属のメンバーだけに限定しようかと考えていました。
しかし、柴田さんの講演を聞き、そしてこの一斎先生のお言葉を読んで、意を新たにし、引き続き全員の日報を見続け、極力コメントを入れていこうと心に誓いました。