【原文】
余は好みて武技を演ずるを観る。之を観るに目を以てせずして心を以てす。必ず先ず呼吸を収めて、以て渠(かれ)の呼吸を邀(むか)え、勝敗を問わずして、其の順逆を視るに、甚だ適なり。此も亦是れ学なり。


【訳文】
自分は武道の試合を観るのが好きで、これを観る場合に、目で観ることをせずに、心で観るのである。必ず最初に呼吸を調整して、その演技者の呼吸を窺い、勝敗のことは気にせず、その試合のやり方が正しいか正しくないかの点を観るのであるが、この観方はよく的中している。これも一つの学問といえる。


【所感】
私は武道の試合を観戦することが好きである。その際は、目で観るのではなく、心で観ることを意識している。必ず最初に呼吸を整えて、選手の呼吸をつかみ、勝敗を問うことなく、呼吸や心の動きを観るのだが、これでその結果を当てることができる。これもまた学問といえるかも知れない、と一斎先生は言います。


一斎先生のご指摘のとおりで、武道あるいはスポーツ全般から学ぶことは非常に多いですね。


ちょうど少し前にリオでオリンピック・パラリンピックが開催されましたが、小生も多くの感動と勇気をもらい、そして学びを得ました。


特に女子レスリングや女子バドミントンでの日本選手の逆転劇には多くの感動をもらいました。


最後の一秒まで、最後の一点を取られるまでは決して諦めないという姿勢は、仕事においてもとても重要なことですよね。


そしてこれは日本人特有の長所ではないでしょうか?
欧米の選手などは早々と結果を諦めてしまうこともありますよね。


ただし、試合になってから諦めない姿勢を貫くだけで勝てるほど、世界のレベルは低くありません。


試合当日までに技術面を徹底的に磨いていたからこそ、良い結果につながったのでしょう。


そういう意味では、昨日の準備の大切さにもつながるところです。


そして、最近の一流のスポーツ選手は、精神面においても鍛錬を積んでいるようです。


この章で一斎先生が観察するという呼吸などは、どちらかといえば精神面での充実度を図る指標となるでしょう。


一斎先生ほどの達人ですから、その呼吸をひと目見れば、どちらが優位に立っているかがわかったのでしょう。


中国の兵法書である『孫子』にはこうあります。


【原文】
古えの善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。
故に善く戦う者は不敗の地に立ち、而して敵の敗を失わざるなり。(形篇)


【訳文】
昔の戦いに巧みといわれた人は、勝ちやすい機会をとらえてそこでうち勝ったものである。戦いに巧みな人は、不敗の立場にあって敵の(体勢が崩れて)負けるようになった機会を逃さないのである。


心と技術の両面を鍛えることで、より勝ち易きに勝つことが可能になるのでしょう。