【原文】
戦伐(せんばつ)の道、始めに勝つ者は、将兵必ず驕る。驕る者は怠る。怠る者は或いは終に衄(じく)す。始めに衄する者は、将兵必ず憤る。憤る者は厲(はげ)む。厲む者は遂に終りに勝つ。故に主将たる者は、必ずしも一時の勝敗を論ぜずして、只だ能く士気を振厲(しんれい)し、義勇を鼓舞し、之をして勝って驕らず、衄して挫けざらしむ。是れを要と為すのみ。


【訳文】
戦いの常道というものは、始めに勝った者は、大将も兵卒も共に必ず慢心を起して油断する。慢心を起す者はなまける。なまける者はどうかすると終りには敗北する。これに対して、始めに敗北した者は、大将も兵卒も共に必ず発憤する。発憤する者は奮励する。奮励する者は遂に最後には勝利を得る。それで、軍を統率する大将たる者は、一時の勝敗にこだわることなく、ただよく士気を振い励まし、義に勇む心持を鼓舞し、兵卒をして勝っても慢心を起さず、敗北して挫折させないようにする。これが肝要なことなのである。


【所感】
戦争の王道において、始めに勝利をつかむと、将軍も兵士も必ず慢心を起こす。慢心を起す者は怠ける。怠ける者は場合によっては最後に敗戦を喫する。始めに敗戦すると、将軍も兵士も必ず発憤する。発憤する者は奮い立つ。奮い立つ者は最後には勝利をつかむ。それゆえ、将軍たる者は、一時の勝敗にこだわらず、よく士気を励まし奮い立たせ、義勇心を鼓舞し、兵士に対して勝っても慢らず、敗けても挫折しないように導く。これが肝要なことなのだ、と一斎先生は言います。


戦いにおけるリーダーシップの要諦について書かれた箴言です。


歴史を振り返ってみても、最初に戦いに敗れた者が最後に勝利を収めるという事例は枚挙に暇がありません。


武経七書のひとつ『尉繚子』という兵法書に、


卒、将を畏るること敵より甚だしきは勝つ。(兵令上篇)


とあります。


近頃立ち上がったBリーグ(日本のプロバスケットボールリーグ)をまとめ上げた川渕三郎氏は、最新刊『独裁力』(幻冬舎新書)の中で、


私欲のない独裁者、それがリーダーの条件だ


と述べています。


リーダーは孤独です。


リーダーの仕事は決めることです。


だから、リーダーは強くなければならないというのが小生の持論でもあります。(もちろん、賛否両論ありますが)


最後の最後はリーダーの独裁力の強さがモノを言うのかも知れません。