【原文】
官長を視ること、猶お父兄のごとくして、宜しく敬順を主とすべし。吾が議若し合わざること有らば、宜しく姑(しばら)く前言を置き、地を替えて商思すべし。竟(つい)に不可なること有らば、則ち笱従(こうじゅう)す可きに非ず。必ず当に和悦して争い、敢て易慢(いまん)の心を生ぜざるべし。


【訳文】
上役の人に対する心得としては、あたかも父兄に対するような、敬い順うことを第一とするがよい。もし自分の意見が上役と合わないことがあったならば、しばらくの間、前に言ったことをそのままにしておいて、立場をかえて自分が上役になったつもりで、よく考えてみるがよい。どうしても、上役の言うことによくない所があるならば、決して軽々しく従ってはいけない。この場合には、必ず顔色をやわらげ、にこにこして互いに論じ合い、決して上役をあなどる心を起さないようにしなければならない。


【所感】
所属の長に対するには、あたかも父兄に対するように、よく敬い順うことを重視すべきである。自分の意見と合わないことがあれば、少しの間は前言をそのままにして、立場を替えて考えるべきである。最終的に長の意見に良くないことがあるならば、そのまま従うようなことをすべきではない。そのようなときは、表情は穏やかにしつつ論争し、間違ってもあなどる態度を見せてはいけない、と一斎先生は言います。


かつての小生は、自分が正しいと思えば相手が上司であろうと口角泡を飛ばして論争を仕掛けるようなところがありました。


その際は、まさに上長を心の中で軽蔑しながら論争していました。


しかしそうした場合、結果的に自分の意見を受け容れてもらうことはできませんでした。


それは当然である。


上司と自分の意見が一致しないときは、すぐに論争を仕掛けるのではなく、以下の二点に気を付けなければならないのだ、と一斎先生はおっしゃっています。


1.一方的な物の見方を改め、相手の立場を考慮する

2.相手を侮るような態度は一切見せず、表情や言葉遣いを慎重にする。


ビジネスの世界においては、上司と自分のどちらが正しいかを論争することは無意味です。


どうしたら、自分の意見を取り入れてもらえるかを考えなければなりません。


上司への接し方については、国民教育者の森信三先生が下記のような至言を残されています。


上位者に対する心得の根本を一言で申しますと、「すべて上位者に対しては、その人物の価値いかんにかかわらず、ただその位置が自分より上だという故で、相手の地位相応の敬意を払わなければならぬ」ということでしょう。すなわちこの場合大事な点は、相手の人物がその真価とか実力の点で、自分より上に立つだけの値打ちがあろうがあるまいが、そういうことのいかんにかかわらず、とにかく相手の地位にふさわしいだけの敬意を払うようにということです。


上長という地位に対する敬意を失うことなく、表情や言葉遣いを慎重にして自分の意見を伝えることで、自分の意見が採用される可能性は極めて大きくなるはずです。


フォロワーシップの基本として心に留めておきましょう。