【原文】
人情の向背は敬と慢とに在り。施報の道も亦忽(ゆるが)せにす可きに非ず。恩怨は或いは小事より起る。慎む可し。


【訳文】
人情が自分に対して向ってくるかそむくかは、敬と慢(あなどる)とにある。すなわち、尊敬の念を以てすれば人が自分に向って来るし、あなどる心を以てすれば人が背をむけて離れていく。なお、人に対して恵を施し恩に報いる道も、またおそろかにしてはいけない。恩や怨はどうかすると小さい事から起るものであるから、よく慎むべきである。


【所感】
人情が自分に向うか背くか、つまり心服されるか背反されるかは、人を敬うか侮るかで決まってくる。また、恩に報いる道もおろそかにしてはいけない。恩とか怨みというものは小さな発端から発するものである。慎まねばならない、と一斎先生は言います。


ここでも重要なことは、人間関係を良好に保とうとするなら、まず自分の態度を振り返り、改めるべきだということでしょう。


自分が嫌いだと思う人は、必ずその人も自分を嫌っているものです。


では、どういう態度が良いのかといえば、相手を敬うことだと一斎先生は指摘しています。


陽明学者の中江藤樹先生は、


親を愛する者は人を憎まず、親を敬う者は人を侮らず。


とおっしゃっており、「愛敬」こそ人倫の根本原理だとしています。


この愛敬は、一足飛びには身につけることができません。


小生は、勤務先の新卒一次面接の試験官を任せて頂いておりますが、面接の際には、ご両親への思いを質問することにしており、その回答からご両親への愛敬を感じることができる学生さんは、学歴を問わず二次面接に推薦しています。


さて、続けて恩に報いる際にも慎重でなければならない、と一斎先生はおっしゃっています。


これについては、既に昨日記載したように、見返りを求めないことがなにより大切でしょう。


相手に心から敬意を抱き、見返りを求めず、ただ自分の心の義に従って行動すれば、人間関係はそれほど難しくないのかも知れません。