【原文】
名誉は人の争いて求むる所にして、又人の群がりて毀(そし)る所なり。君子は只だ是れ一実のみ。寧ろ実響有るも、虚声有ること勿れ。


【訳文】
名誉というものは、人々が争って求めるものであり、また人々が集まって非難するものでもある。教養のある立派な人は、ただ一つの実(真実)をたっとぶだけである。むしろ、実にふさわしい名(名誉・名声)があっても、実の伴わない名というものはあってはならない。


【所感】
名誉というものは、人が争い求めあうものであって、また人が集まって非難し合うものでもある。立派な人物はただ真実を求めるだけである。むしろ、実際の功績による名誉を得るのはよいが、実力も無いのに名誉を得るようなことがあってはならない、と一斎先生は言います。


これは小生がかつて属していた様な大きな会社では、どうしても避けられないものでもあります。


企業、特に営業の世界では、結果を出さないと出世できません。


出世できないと大きな仕事ができません。


そこで、どうしても地位が必要になります。


いや、実際には必要ないのかも知れませんが、当時は必要だと信じていました。


そのために小生も、ここで一斎先生がご指摘されているように、随分と虚勢を張ってきました。


しかし、実力の伴わない地位や名声は永続きしません。


いつかは底が割れてしまいます。


本章で学ぶべき大切なポイントは、人はただ自分の分際に適した仕事を精一杯やり抜けばよいということです。


決して手を抜かないということです。


手を抜いたことには誰も気づかないかも知れませんが、少なくとも本人だけはそれを確実に知っています。


手を抜いた仕事では、期待する結果を得ることができないことを誰よりも理解しているのは本人です。


他人は騙せても自分を欺くことはできません。


自分を欺かずに精一杯を尽くすことを儒教では、「忠」といいます。


かりに成果を上げても評価されずに名誉を得ることができないこともあるかも知れません。


それでも自分自身に嘘をつかない「忠」という徳を守り続けて、悔いのない清々しい人生を歩みましょう。