【原文】
薬物は甘(かん)の苦中より生ずる者多く効有り。人も亦艱苦を閲歴すれば、則ち思慮自ら濃(こま)やかにして、恰(あたか)も好く事を済(な)す。此と相似たり。


【訳文】
薬は甘味が苦味の中から出てくるものに、多く効能があるものである。人間もそれと同様に、艱難辛苦を経験すると、考えが自然と深く細やかになり、何事もよく成就する。これとよく似ている。


【所感】
薬は甘味が苦味の中から出てくるものに効果の高いものが多い。人間も艱難辛苦を経験すると、思慮深くなり、何事も上手に処理できるようになる。共に似ている、と一斎先生は言います。


『孟子』の有名な言葉があります。


【原文】
若し薬瞑眩(めいげん)せずんば厥(そ)の疾(やまい)瘳(い)えず。 (勝文公上首章)


【訳文】
薬は飲んでめまいがする位でないと、病気は治らない。(川口雅昭先生訳)


ここでの一斎先生のことばもそうですが、薬というのは強烈な苦味があったり、身体へのアタック性が強いものほど、実は効能も高いものだという意味です。


人生も同じであって、艱難辛苦を味わうからこそ、人の心の痛みや苦しみを本当に理解できるようになります。


いわゆる逆境の経験です。


この逆境は、その程度が大きければ大きいほど、それを乗り越えた時には心の優しさや安定を手に入れることができます。


逆境の後にしか幸せの花は咲きません。


あえて逆境に飛び込む必要はないかも知れませんが、逆境に遭遇してしまったならば、そこから逃げ出すのではなく、真正面からぶつかり、矢印を自分に向けるべきです。


そうすれば、いつかは逆境を乗り越え、幸せをつかむことができるはずです。