【原文】
人各おの長ずる所有り、短なる所有り。人を用うるには宜しく長を取りて短を舎つるべし。自ら処するには当に長を忘れて以て短を勉むべし。
【訳文】
人には各々長所もあれば短所もある。人を使う場合には、その人の長所を取って用い、短所を見ないようにするがよい。しかし、世に処していく際には、自分の長所を忘れて、短所を補うように努力すべきである。
【所感】
人にはそれぞれに長所と短所がある。人を使う際にはその人の長所を活用し、短所は用いないようにすべきである。自らが事に当たる場合は、自分の長所を忘れて、短所を改善するように励むべきである、と一斎先生は言います。
人材活用の基本事項です。
人には必ず長所と短所があります。
それを合算してしまうと、仮に長所が大きくても短所で相殺されて長所が活かされません。
長所だけに着目し、短所を捨てて仕事に当たってもらえば、それなりに成果が上がるはずです。
さて自分自身についてはどうかといえば、短所の改善に挑むべきだとしています。
ところで人には、技能面(外面)と性格面(内面)でそれぞれ長所と短所を有しているものです。
森信三先生が『修身教授録』の中で指摘しているように、知識や技能面での長所と短所は、たとえば文科系の人は運動が苦手であり、運動が得意な人は読書が苦手といったように、その方向がまったく逆向きであることがほとんどです。
ところが精神面になりますと、長所がそのまま短所になったり、短所が長所になるなど、その関係は表裏一体です。
本章で一斎先生が指摘している自己の短所とはこの精神面(内面)の短所を指しているとみて良いでしょう。
精神面の短所は、しっかり自己反省をして精進すれば、そのまま長所に変えることが比較的容易だからです。
春風を以て人に接し、秋霜を以て自ら粛(つつし)む。
という名言(第279日既出)を具体的な行動で解説した章だとみることができます。