【原文】
君に事(つか)えて忠ならざるは孝に非ず。戦陣に勇無きは孝に非ず。是れ知なり。能く忠、能く勇なれば、則ち是れ之を致すなり。乃ち是れ能なり。


【訳文】
『礼記』に「君に事えて忠でないのは孝ではない。戦場で勇のないのは孝ではない」とあるが、忠・勇が即ち孝であると知るのは単なる知(知識)である。さらに進んで、実際に忠・勇を実行に移せば、これこそ能、すなわち行である。


【所感】
君主(上司)に仕えて忠誠を尽くせないようでは孝といえない。戦場において勇気を発揮しないのも孝とはいえない。これが知である。忠誠心と勇気を実行に移せば、知を致すことになる。これが能つまり実行である、と一斎先生は言います。


知と良についての章句が続きます。


ここでは親孝行だけが孝ではなく、上司への忠誠心や戦場での義勇の発揮も孝であるとしています。


真に親に仕える気持ちがあれば、職場においては上司に仕え、戦場においては義勇心を発揮できるのだ、という教えは納得できます。


『論語』学而第一にもそのことが記載されています。


【原文】
有子曰わく、其(そ)の人と爲(な)りや、孝弟にして上(かみ)を犯すを好む者は鮮なし。上を犯すを好まずして亂(らん)を作(な)すを好む者は未(いま)だ之れ有らざるなり。君子は本を務む、本立ちて道生ず。孝弟なる者は、其れ仁を爲すの本か。


【訳文】
有先生が言われた。
「その人柄が、家に在っては、親に孝行を尽し、兄や姉に従順であるような者で、長上にさからう者は少ない。長上に好んでさからわない者で、世の中を乱すことを好むような者はない。何事でも先ず本を務めることが大事である。本が立てば、進むべき道は自ら開けるものだ。従って孝弟は仁徳を成し遂げる本であろうか」(伊與田覺先生訳)


小生はこの章を読んだとき、衝撃を受けました。


この言葉を逆に解せば、会社や社会で目上の人に食ってかかるような人は、そもそも家庭で孝を尽くせていないのだ、と読めるからです。


なにかと言えば、上司や先輩に意見をしていた自分を今更ながらに恥じたことを思い出します。


小生は幸いにも両親が健在です。


まずは自分自身が孝を尽くし、そしてわが子に孝を尽くす大切さを教えていくことが、仁つまり衆善(すべての善)の根本であり、良知を致すことになるのだということを、この章句は教えてくれています。