【原文】
凡そ大都を治る者は、宜しく其の土俗人気を知るを以て先と為すべし。之が民たる者は、必ず新尹(しんいん)の好悪を覗う。人をして覗わざらしめんと欲すれば、則ち倍々(ますます)之を覗う。故に当に人をして早く其の好悪を知らしむべし。卻って好し。何の好悪か之れ可と為す。孤寡(こか)を恤(あわれ)み、忠良を愛し、奢侈を禁じ、強梗(きょうこう)を折(くじ)く。是(これ)を可と為す。


【訳文】
だいたい大都会を治める者は、まずその土地の風俗習慣や人々の気質をよく知るのがよい。住民たちは必ず新任の長官の良否を知ろうとするものである。住民に知られまいとするならば、住民はますます知ろうとするものである。それで、住民に早く知らせるべきで、これが反ってよいのである。それなら、どういうのがよいのか。すなわち、孤児ややもめを憐んだり、忠実で善良な人を愛したり、贅沢な生活を禁じたり、強暴な者をこらしめたりすることなどが良いことである。


【所感】
大きな会社や組織をマネジメントする者は、そこに所属するメンバーの習慣や気質をしっかりと把握することをまず優先すべきである。メンバーは必ず新任マネジャーの良し悪しを確かめようとするものだ。それを見せまいとすれば、余計にそれを探ろうとするだろう。したがって、まず自分の価値観をしっかりとインプットすべきである。その方がかえって良い結果を生むのだ。では、どんな価値観が良いのか? 独身のベテラン社員さんを大切にし、上司に忠実で善良なメンバーを可愛がり、贅沢を斥け、力づくで反抗するようなメンバーには厳しく指導するといったことであろう。これらが良い価値観だと言えよう、と一斎先生は言います。


先日、闘将といわれた星野仙一さんが70歳の若さで亡くなりました。


その星野さんがかつてこんなことを言っていましたね。


「ドライバーを何本もゴルフバッグに入れてもゴルフはできない」と。


これは、かつて各チームの主砲クラスを金で呼び集めた読売ジャイアンツに対する、星野さんらしいシニカルな一撃でした。


「ウチの会社はどうなってるんだ!」
どうやら、神坂課長は昨日の会議の結果にまだ不服なようです。


今日は、大手取引先のO光学さんの名古屋支店長とのアポイントがあるようで、車を運転させながら、ぶつぶつと独り言を言ってるようです。 


「やあ、神坂さん、わざわざ呼び出してすまなかったね」 


「いえいえ、小林さん、フットワークの軽さが私の唯一の取り柄ですから」


「実はね、今度当社で新製品を導入することになったんだが、その販売方法やターゲットについて、神坂さんの意見もぜひ聞いてみたくてね」 


O光学さん久しぶりの大型新製品の導入について、ひとしきり議論をした後、神坂さん、我慢できずに昨日の件を切り出したようです。


「小林さん、どう思われます? 私は、納得がいかないんですよ」


「それは難しい問題ではありますね。
ただね、ウチのような会社だと、昇格の基準を売上だけにするわけにはいかない面もありますよ」


「なぜですか?」 


「当社の場合、営業マンは3~5年おきに転勤します。
だから、ひとりの営業マンがひとりのお客様を一生担当するということはできないでしょう。
そうなると、どうしても営業マンごとのスキルの差が生じるんです」


「それは、そうでしょうね」 


「営業のセンスやスキルというのは、ある程度までは高めることができても、すべての営業マンを神坂さんのようなスーパーセールスに育て上げることはできません」


「恐縮です」


「でもね、営業マインドを高めることならできるんです。
損得よりも善悪を考えるようなマネジャーが頭に立つとね」


「???」


「損得マネジャーは、メンバーの売上しかみていません。
しかし、善悪マネジャーは、組織の風土やメンバー各々のキャラクターをしっかりと把握した上で、各自にあった育成プランを立てることができます」


「・・・」


「5人のメンバーが五分の一ずつ役割を担う組織は理想ではあっても、現実的ではないでしょう?」


「それはそうですね」


「神坂さんのような四番打者もいれば、バントの上手な二番打者もいる。
そうしたメンバーの能力と個性をしっかりと把握した上で、『お客様の課題解決のお手伝いをする』という営業マインドだけは同じ強さで持たせることが重要なんです」


「なるほど」


「そのためには、メンバーのプライベートや家庭の事情まで、ある程度は把握していてくれないと困るんです。
ところが損得マネジャーは、それは自分の仕事ではないと切り捨てがちなんですよ」


会社へ戻るために車を走らせながら、神坂課長は深く思案をしていたようです。


まだ、腹には落ちないものの、何か自分に欠けているものが見えてきたように感じながら。


「小林支店長、ありがとうございました」


「いや、佐藤さん、ちょっとやり過ぎたかもしれないから、フォローはよろしくお願いしますよ!」


「お任せください」 
部長室で佐藤部長は、うれしそうに電話を切ったそうです。


編集後記 

神坂課長、今回は頭をガツンと鈍器で叩かれたような面持ちで帰社したようです。

なにかをつかんで成長してくれることを願います。

それにしても、佐藤部長とは何者なのでしょうか?

一斎先生と同じ佐藤姓ですが、一斎先生との関係は?