【原文】
教えて之を化するは、化及び難きなり。化して之を教うるは、教入り易きなり。


【訳文】
まず教え導いてから感化する(自分でやる気を起こさせる)ことはなかなか難しいが、感化してから教え導くことは容易である。


【所感】
社員さんを育成する際、まず指導をした後にやる気を起させるのは非常に難しいが、先に自発的に行動するスイッチを入れてから指導をすると容易に成長するものである、と一斎先生は言います。


馬を水辺に連れていくことはできても、水を飲ませることはできない、という有名なイギリスの諺がありますね。


逆に考えると、水が飲みたいと思えば、放っておいても馬は水辺に水を飲みにいくのです。


強制的に「何かをさせる」のではなく、自発的に「何かをしたい」と思わせることが大事なようです。


毎月定例の営業課長会議を終えたあと、喫茶コーナーで営業部の3人の課長が談笑しているようです。


「いまどき、まだたばこを吸ってる奴がいるんだねぇ」と神坂課長。


「IQOS(アイコス)を愛用している人に言われたくないですよ」と大累(おおるい)課長。


「神坂君、いっそのこと、たばこを辞めるという選択肢はなかったの?」


「西(さい)さん、これはストレス解消のひとつですから。
だいたい、この会社にいると次から次へとストレスが襲い掛かってきますからね」


「ははは。ストレスといえば大累君、雑賀(さいが)君のことでは、だいぶ悩んでいるみたいだね」
と西郷課長が本題を切り出します。


「いやあ、参ってます。
とにかくどうしたら彼の心にモチベーションの火を点すことができるのか?と悩み続ける日々ですよ」


「そんなもん、徹底的に追い込んで、やらざるを得ない状況をつくるしかないだろう」
神坂課長は相変わらずです。


「神坂君はそれができるのかも知れないけど、大累君はそういうタイプじゃないもんな」


「はい。でも、彼はどちらかといえば優秀な社員さんだと思うんですよ。
指示したことはきっちり処理しますからね。
ただ、新規顧客の開拓は苦手なようで、やらなくて良い理由を見事にプレゼンしてくるんです」


「プレゼンも上手なんだ? ははは」


「そういうときの彼のプレゼンの説得力には恐れ入りますよ。
思わず、納得しそうになります。(笑)」


「四番バッターではないということか?」


「えっ、神坂さん、何か言いました?」


「いや、なんでもない。独り言」


「僕らができることには限りがあるよね。
社員さんを変えようなんて思うのは、上司としての驕りなんだろう。
僕らにできるのは、社員さんが自ら変わろうと思うきっかけを与えることだけなんじゃないかな」と西郷課長。


「なるほど。
たしかに私は、雑賀君を変えようとして焦り過ぎていたかも知れません」
大累課長は深く頷いています。


「そういうものですかね?
自ら変わるのを待っていたら、売上なんか上がらないじゃないですか?」
神坂課長は納得していないようです。


「それまでは主力メンバーに頑張ってもらうんだ。
近い将来、戦力となって活躍してもらう選手に育てあげるんだ、という気持ちで、励まし使い続けるんだよ」


「西さんに一票!
ところで、雑賀君は『ありがとう』をもらった経験が少ないんじゃないの?」


いつの間にか、いつものように砂糖入りミルクなしのアイスコーヒーを片手に佐藤部長が輪に加わっていました。


「社員さんはお客様と一緒に成長していくものだよ。
モノを買ってもらう我々が『ありがとう』を言うのは当然だが、お客様のお役に立てていれば、必ずお客様からも『ありがとう』が返ってくるはずだよね」


「そうですね、雑賀君がお客様から『ありがとう』をいただける環境を整えてみます」


「大累君、ありがとう。ぜひ検討してみてください。
それからもうひとつ。上司である君達からの『ありがとう』も、社員さんにとって大きなモチベーションになることを考えてみるといいよ」


「はい」


「2課のメンバーに『ありがとう』なんて言ったことあったかな?」
神坂課長は、そんなことを考えながら外出したそうです。



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