【原文】
治国の著眼の処は、好悪を達するに在り。


【訳文】
国を治める上で、目の著け所は、『大学』にある如く、人民の好む所はこれを好ましめ、悪(にく)む所はこれを忌み嫌うようにさせる。


【所感】
マネジメントの要諦は、社員さんの好むことを行わせ、好まないことは行わせないことにある、と一斎先生は言います。


好きこそものの上手なれ、と言われますが、


かつて小生と一緒に仕事をした人にこんな人がいました。


技術系の職場から営業職に異動になったSさんは、とにかく物覚えが悪く、一週間前に訪問したお客様の名前を忘れてしまうような状態。


これでは営業は無理だろう、となったのですが、このSさん、PCの知識は凄かった。


小生がPCのことでわからないことがあり、外出中のSさんに電話でヘルプを求めたところ、


「まず右から○番目の××をダブルクリックして、次に左から○番目の△△をクリックして・・・」 


と、まるで隣で画面を見ながら教えてくれているかのように、スラスラと説明するのです。


これは、記憶力が悪いのではなく、営業への苦手意識がそうさせていたんだなと気づかされました。


そのSさんは、その後システム部門に異動となり、今も大活躍を続けています。


さて、今日の神坂課長は?


営業2課では、ちょうど朝礼が行われているようです。


「石崎君、今日の行動予定を報告してください」
と司会の本田さん。


「はい、本日は、ABクリニックさん、G病院さんに飛び込みをかけます」


「施設データは把握しているの?」
と、神坂課長。


「ホームページは確認しましたが、参考になる情報はなかったので、とにかく行ってみます」


「ABクリニックさんなら、山田さんが以前に取引していたよね?」


「はい課長、私のときは大先生(父親)と取引をさせてもらっていたのですが、その後、若先生(息子)が戻ってからはY社の担当者ががっちり押さえ込んでいるので、入り込むのはかなり厳しいかも知れません」


「石崎君、せめてその程度の情報は、過去の先輩の日報を読んでしっかりと把握しておくようにな」


「すいません」


「すいませんじゃなくて、すみません!」


「すみません。(ペロ)」
石崎君、神坂課長にバレないように舌を出しています。


「佐藤部長、石崎君は鉄砲玉みたいな奴ですね。
それでも、意外と商談を拾ってくるのには驚かされますが」


「若いっていいね」


「彼と同期の善久(ぜんきゅう)君は、どちらかといえば慎重すぎて、一歩を踏み出せないところがあるんですよ。
ふたりを足して二で割ったら、ちょうどよい営業マンになるんですがね」


「若いうちはね、短所を是正するより、長所を伸ばすことを考えた方が伸びるものだよ」


「先に聞いちゃいますが、佐藤一斎先生はこういう時の対処方法をどう言ってるのですか?」


「好きなことを徹底的にさせて、嫌なことはしばらく置いておくと良いと言ってるね」


「なるほど、足して二で割ってしまうと、どちらの個性も消してしまう恐れがあるということか」


佐藤部長は、黙ってニコニコ笑っています。


「PDCAのサイクル(※)を回すという基本にこだわらずに、石崎君にはしばらくP(Plan:計画)なしで、いきなりD(Do:実行)から初めても良しとしてみましょうか?」


「実際に今、結果も出ているということは、C(Check:振り返り)とA(Action:改善策の実行)は出来ているということじゃないかな」


「とにかく、彼の行動力を伸ばしつつ、徐々に計画の大切さを学んでもらいます」


「神坂課長、ありがとう。ぜひ、そうして欲しいね」


「はい。考えてみれば、私の新人の頃なんか、石崎君以上の鉄砲玉だったかも知れませんからね」


「かも知れない?」


「いや、佐藤部長、そこは否定してくださいよ!」


※PDCAのサイクル:生産管理、品質管理手法のひとつ。
P(Plan=計画)、D(Do=実行)、C(Check=評価)、A(Action=改善)の4段階を何度も繰り返しながら、製品や業務を改善すること。


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