【原文】
凡そ事は度を過す可からず。人道固より然り。即ち此(これ)も亦養生なり。〔『言志耋録』第318条〕
【訳文】
総て何事においても、節度を守って度を過すことがあってはいけない。人間が行なうべき道についてもそれと同じである。このことも、養生なのである。
【所感】総じてなにごとも節度を守って度を超すことを戒めるべきである。人間の言動も当然同じである。これもまた養生のコツなのである、と一斎先生は言います。
今日の午前中に、課長職以上のメンバーを集めて、ハラスメント研修が開催されました。
研修終了後、西村総務部長、佐藤営業部長、大竹総務課長、鈴木人事課長、西郷営業1課課長、神坂2課課長、大累特販課課長、新美次期課長の8名で昼食を食べているようです。
「とてもわかりやすい研修で参考になりましたね」
鈴木課長がメモを見ながら感想を述べています。
「時代の移り変わりの話は『なるほどな』と思ったよ」
と西村部長。
「1990年代はCF(Customer First:顧客第一)の時代、2000年代はCS(Customer Satisfaction:顧客満足)の時代、2010年代はCS(Customer Delight:顧客感動)の時代ってやつですね」
と大竹課長。
「そして2020年代は、CR(Customer Reliance:顧客信頼)の時代となる。しかも、その信頼はお客様だけでなく、社員同士においても必要不可欠になる、ということだったな」
と西村部長。
「しかし、驚きましたね。10人に1人はLGBTだっていうんですから」と大累課長。
「みんな頷いてたから聞きづらかったんですけど、Lはレズ、Gはゲイ、Bはバイセクシャルというのはわかるんですけど、Tって何なの?」
神坂課長が首をかしげています。
「Tはトランスジェンダー、つまり性の不一致ですよ」
大累課長が答えます。
「なるほど。そんなことにまで気を使わなきゃいけない時代になったのか。無暗に『男のクセに』なんて言えないわけだ」
「そうだよ、それを言ったら、セクハラにも該当するぞ」と鈴木課長。
「そうなの? お尻をさわるのだけがセクハラじゃないのか!」
神坂課長が大声を出して、周囲の顰蹙をかっています。
「ははは。しかし、今日の話のポイントは、まったく叱らないということでは会社の為にならない、というところだろうな」
西村部長が食後のコーヒーを注文しながら、つぶやきます。
「パラハラ = 叱責 + 嫌がらせ 、だと先生は言っていましたね」
「新美君、そうなんだよ。相手の人間性を否定するような発言は避けなければならないということだ。な、神坂君」
「西村さん! なんでそこで私に声をかけるんですか?」
「え、だって君と僕は同類だろう?」
「一緒にしないでくださいよ! たしかに心当たりは多分にありますが・・・」
「『行為を叱って、人格を誉める』というのは説得力がありましたね」と西郷課長。
「要するに、正しい叱り方を心掛けることが大事であって、部下に無関心になるというのは、最もやってはいけないことだよな」
「西村部長の言うとおりでしょうね。叱らないということは、相手の成長機会を奪うことでもある、という言葉は印象に残っています」と鈴木課長。
「そして、そうなると、かえって有能な人材が流出してしまう、とも言っていましたね」
大累課長もうなづいています。
「しかし、説教は90秒以内というのは参ったな。そんな短い時間で叱るというのは相当難しいよなぁ」
神坂課長は困惑顔です。
「たしかにそうですね。神坂さんの場合は、長いと9分どころか、90分くらい説教しているときがありますよね!」とニコニコしながら大累課長。
「やかましいわ! だいたいお前はな・・・」
「はい、90秒経過です!」
「まだ経ってないわ!」
「まあまあ。神坂君と大累君もなかなかの名コンビだよね。さあそろそろ戻らないといけないから、佐藤さんに締めてもらおうかね」
西村部長が佐藤部長に発言を求めたようです。
「一斎先生はこんなことを言っています。『何事も度を超さないことを心掛けるべきだ。人間同士のことについては、特に気をつけるべきであり、それが養生にもなるのだ』と。」
「なるほどね。コミュニケーションの基本は言葉にあるから、まずは言葉を変えていくべきだろうな」と西村部長。
「ええ、講師の先生が最後に言っていた、男性にはSOS話法、女性にはAUTO話法というのは参考になりましたね」
佐藤部長も頷いています。
「ああ。男性には『さすが、おしえて、すごい』といった言葉を使う。女性には『ありがとう、うれしい、たすかる、おかげで』といった言葉を使う、ってやつですね」
神坂課長が自慢げに発言しました。
「さすが!」
残りの7名の声が揃いました。
「なんか、皆さんのSOSに嘘くさいものを感じるのは私だけですかね・・・」
ひとりごと
ひと昔前に比べれば、昨今はリーダー諸氏にとって、とても難しい時代になったと言えるでしょう。
「〇〇ハラスメント」という言葉が横行する時代ですので、メンバーに対してより慎重な対応が求められます。
しかし、だからといって、メンバーに対して、誉めるだけで叱らなければ、かえってメンバーの成長の機会を奪ってしまうのです。
では、どうすればよいのか?