【原文】
老人は養生に托して以て放肆(ほうし)なること勿れ。養生に托して以て奢侈なること勿れ。養生に托して貪冒(とんぼう)なること勿れ。書して以て自ら警む。〔『言志耋録』第320条〕


【訳文】
老人は養生を口実にして、わがままになったり、贅沢になったり、欲ばったりするようなことがあってはいけない。このことを書いて自分の戒めとする。


【所感】
年齢を重ねた人は、養生にかこつけてわがままになってはいけない。養生にかけつけて贅沢になってもいけない。養生にかこつけて貪欲になってもいけない。ここに記して自分の戒めとする、と一斎先生は言います。


今日は、営業1課の西郷課長が後任の新美さんと業務引継ぎの打合せをしているようです。


「課長、正直に言いまして、しっかりと営業1課をまとめ切れるのか不安で仕方がありません」


「それは当然だろう。逆に何の不安もないと言われたら、私が不安になってしまうよ」


「とくに、先輩であり、ウチのエースでもある清水さんとうまくやれるかどうかが心配なんです」


「彼には私からもよく話をしておくよ。彼の営業力が会社でナンバー1なのは、誰もが認めるところだし、それを否定する必要はないからね」


「もちろんです。尊敬する先輩です」


「そうだね。役職上位者というのは、会社の様々な都合によってその位置についているだけで、決して部下よりも偉いということではないんだ」


「はい。肝に銘じておきます」


「ちょっと厳しいことを言うけど、お客様への配慮や販売のスキルに関していえば、新美君は清水君には及ばない。それは社内でも共通の認識だよ」


「それは自分でも理解しています。だからこそ、なぜ私なのか、と驚いたのです」


「ただ、それを言うなら、私だって清水君には敵わないよ」


「・・・」


「清水君は社内への配慮にぞんざいなところがある。我々はチームセリングをしなければいけない。そのためには、まずチームをまとめる必要がある」


「はい、西郷課長のマネジメントにはいつも感動させられてきました」


「ありがとう。私のやり方を真似する必要はないが、マネジャーはメンバー各々に対して、仕事を通して『自己実現』できるような組織づくりをしなければならないんだ


『自己実現』ですか?」


「うん。『マネジメント』という言葉の生みの親でもある、ピーター・ドラッカー博士がそう言ってるんだ」


「働きやすい環境を整えるというだけではダメなんですね?」


「さすがだね。もちろん環境整備は必要だよ。しかし、それに加えて、メンバー個々の特性を把握して、それに適した責任ある仕事を与え、しっかりとフィードバックしていくことが必要なんだよ」


「そこまでやらなければいけないんですか・・・」


「今の時点で、それを任せることができのは、新美君だと会社は判断したんだよ」


「身が引き締まる思いがします」


「メンバーと一緒に成長すればいいんだよ。上からの目線ではなく、水平な目線でね」


「はい。最後にずっと心に刻んでおくべき言葉があれば、教えていただけないでしょうか?」


「そうだなぁ。『論語』の中で、孔子が常に心掛けていたこととして、『意なく、必なく、固なく、我なし』という言葉があるんだ。」


「どういう意味ですか?」


「孔子はね、自分のやり方を押し付けること、必ずこうしようと決めてしまうこと、ひとつのことにこだわり過ぎること、我がままを言うこと、という4つのことを絶とうと常に意識していたんだ。リーダーとして、意識しておくべき言葉だと思うよ」


「ありがとうございます」


「ちなみに、佐藤一斎先生は、『我がまま・贅沢・貪欲の3点を意識すると良いと言っているようだよ」


「併せて心に刻んでおきます」


「もちろんこれは佐藤さんの受け売りだけどね。この言葉は老人が養生する際に気をつけることとして記載されているらしいんだけど、そのままリーダーシップにも応用できるね、と話しをしたことがあるんだ」


「とにかく、1課の皆さんが自己実現できるチームづくりを意識しながら、皆で一緒に成長していきます!」


「頼んだよ!」


ひとりごと 

リーダー職につくと、どうしても自分が偉くなったと思い違いをしてしまいがちです。

実際には、決してそうではなく、会社の様々な状況が勘案されて昇格が決まります。

人間的に優れているとか、能力的に優れているといった一面だけで決まるわけではないはずです。

これからのリーダーに求められるのは、「俺について来い!といった統率型のリーダーシップではなく、メンバーと一緒に伴走するような奉仕型・サーバント型のリーダーシップだと言われます。

時代と共に、マネジメントもリーダーシップも変えていく必要があるのです。


出典:福岡大学コラム
https://www.fukuoka-u.ac.jp/column_list/research10/15/05/26000001.html
20150522-1