今日は営業2課、今年度最後の売上進捗会議が開催されているようです。


「駄目か。あと3千万円がどうしても詰まらないか。各自の不確定案件はどれくらいあるんだっけ?」


「はい、課長。私はあと1件ありますが、5百万円弱の売上の予定です」
山田さんが答えます。


「私は、あと3件ですが、すべて決まったとして2千万円といったところです」
2課のエース、本田さんの答えのようです。


「石崎と善久はどうだ?」


「すみません。私はもう今月までに決まりそうな案件はありません」
善久君が申し訳なさそうに発言しました。


「僕、じゃなかった、私は、今日返事をもらえそうなご施設がありますが、3百万円程度です」
石崎君です。


「そうか。すべて決まっても3千万円には届かないようだなぁ」


「神坂課長、最後まであきらめずに営業活動を続けましょう。私は、消耗品の買い増しや修理促進などで、少しでも上積みを狙います」


「山田さん、そうだよね。まだ1週間以上残っている。みんな、最後まで課全体での達成を諦めずにしっかりお客様のところを訪問してくれないか!」


「はいっ」


2課のメンバーが外出した後、神坂課長は佐藤部長の部屋に入ったようです。


「佐藤部長、私もこの3ヶ月は、すこしマネジメントのやり方に工夫をしてきたのですが、思うように結果が出てきません。やはり私のキャラクターだと、厳しく徹底的に追及する方が良いんですかねぇ?」


「ははは。神坂君らしくない弱気な発言じゃないか」


「ええ、正直に言って迷ってます」


「少なくとも、最近の2課の雰囲気はすごく良くなったと思うよ。会議でも若手が積極的に発言しているしね」


「ええ、それは以前にはなかったことなので、私もうれしく思っていたのですが。最近は、少し舐められているのかなぁとも思ったりしまして」


「そんなことはないだろう。良い雰囲気と馴れ合いの雰囲気は違うものだよ。私には馴れ合いの雰囲気は感じられないよ」


「そうですか。それなら良いのですが・・・。最近、石崎と善久の直帰が多くなったような気がしましてね」


「実はね、これは内緒にしておいて欲しいと言われたんだけどね」


「えっ?」


「石崎君と善久君は、夕方ふたりで手分けして、開業医さんに飛び込み訪問をしているんだよ」


「そんなこと、なぜ私に内緒にする必要があるんですか?」


「カミサマをサプライズで喜ばせたいんだそうだ」


「あいつら・・・」


「以前の神坂君の高圧的なマネジメントだったら、ふたりはそんな気持になっただろうか?」


「・・・」


「一斎先生もこう言ってるよ。『天の道というものはゆるやかに運行する。同じように人の身の上に起ることもゆるやかに変化するものだ。自分の思い通りの速度で動かすことはできない』とね」


「天の道にそって流れるのを待つしかないのですね?」


「まさに、『人事を尽くして天命を待つってことじゃないかな」


「3ヶ月やそこらで結果を求めるな、ということですね」


「そうだよ。私は今の神坂君のマネジメントに期待している。やはり今は上からのマネジメントより、水平目線のマネジメントが必要なんじゃないかな」


「わかりました。メンバーを信じて、もう少し今のやり方を工夫してみます。ただ・・・」


「どうした?」


「入社1年目の石崎に『カミサマ』なんて呼ばれているのは、やっぱり舐められてるんじゃないかと思いましてね」


「よく言うよ。君も若い頃、西村さんのことを『アカオニ』とか言ってなかったっけ?」


「あっ、そういえばそうでした(笑)」


ひとりごと 

なにかを変えようと努力をしても、すぐには結果が出ないものですよね。

だからといって、すぐに諦めて元に戻してしまったら、永遠に変化を起こすことはできません。

やり抜く覚悟をもって、工夫を加えながら、自分が信じたやり方をコツコツ続けていくしかないのでしょう。

とくにマネジメントにおいては、常にメンバーを育成しながら結果を出すという難しい課題が突き付けられます。

かつての小生は短期的な結果を出すことを優先して、メンバーを強制的に動かすというやり方をしていました。

そのやり方は天の道に反することであったために、継続的に結果を出し続けることができず、挫折することになったのだと気づかされました。


【原文】
天道は漸を以て運(めぐ)り、人事は漸を以て変ず。必至の勢は、之を卻(しりぞ)けて遠ざからしむる能わず、又、之を促して速やかならしむる能わず。〔『言志録』第4条〕


【訳文】
天地の道はゆるやかに運行し、人間の身の上に起るあらゆる出来事もゆっくりと変化していく。そこには必ずそうなるという勢いがあるもので、これを勝手に退けて遠ざけることもできなければ、これを促して急がせることもできないものだ、と一斎先生は言います。



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