週末金曜日の定時後、会社には2年生トリオが残っているようです。


「なんだよ、お前ら。今日はノー残業デーだぜ」


「えっ、石崎はもう業務終了かよ?」
善久君が驚いています。


「仕事は残ってるけど、割り切ることも大事じゃないか。俺、今日はこの後デートだし」


「いいよな、石崎は。俺たちは彼女がいないから急いで帰る必要もないんだよな」


「いや、言い難いんだけど・・・。僕も彼女ができたんだ」


「えーっ、マジで!! 願海、いつの間にそういうことしてるんだよ」


「この前、図書館で偶然同じ本に手を出してさ。そこから話がはずんで、お付き合いすることになったんだ」


「そんなドラマのワンシーンみたいなことが本当にあるのかよ。あーあ、彼女がいないのは俺だけか~」


「じゃあ、願海も早く帰った方がいいんじゃないの。せっかくのフライデーナイトだぜ!」


「そうなんだけど、仕事が終わらないんだよ」


そこに神坂課長がやってきました。


「こらっ、ガキども! とっと帰らんかい!!」


「課長、自分の部下に向かって『ガキども』はないですよ」


「ああ、石崎さん。これは大変失礼を致しました。謹んで訂正をさせていただきます」


「なんか、気持ち悪いなぁ。ところで課長、えらくご機嫌ですね」


「そりゃそうだよ、これからドームで野球観戦さ。それもバックネット裏の特等席よ」


「えー、いいですね。今日はドラゴンズとジャイアンツのカードじゃないですか」


「そうなんだよ。今日の先発は菅野だから楽勝でしょう。で、お前らは若いのに彼女とデートの予定もないのか?」


「いや、私と願海はこのあとデートですけど、善久はどうなのかなぁ?」


「うるさいな、石崎! 覚えてろよ、いつかお前が羨むような美女をゲットしてやる!」


「なんだ、願海も残業か?」


「はい、段取りが悪いのだと思いますが、なかなか終わりません。優先順位はつけているつもりなんですけど・・・」


「仕事を効率よく処理するには、最初が肝心だよ。優先順位をつける前に、劣後順位をつけないとな


「劣後順位ってなんですか?」
願海君が興味深い視線を神坂課長に向けています。


「まず、何をやらないかを明確にすることだよ。石崎みたいに不真面目な奴は別だけど、君達ふたりのような真面目なタイプは、優先順位をつけても、結局それを全部処理しようとするんだよ」


「ああ、なるほど」


「『なるほど』じゃねぇよ。誰が不真面目だ!」
石崎君は不満そうです。


「だいたい、『忙しい、忙しい』って騒いでいる奴に限って、8割方たいして需要でもない仕事に追われているんだ。それも、それを重要なことだと勘違いしているんだからたちが悪いよな」


「・・・」


「重要度と緊急度をよく考えて、まず今やらなくていいことを決めて、スパッと切ってしまえばいいんだよ」


「神坂課長、ありがとうございます! 今やっている仕事は、月曜日でも間に合うので、彼女とのデートを優先します!」


「それでよろしい! で、善久はどうするんだ」


「わ、私は重要な仕事をしているので、もう少しやっていきます!」


「早く終わらせて、合コンにでも参加しろよ!」
石崎君が意地悪そうに笑っています。


「うるさいな!」


「さて、では私はドームへ急ぎますゆえ、そろそろ失礼致しますね」


「あれっ、課長」


「なんだよ、善久」


「ドラゴンズが1回裏に5点先制したみたいですよ」


「えーっ、マジで!! 俺も残業しようかな・・・」


ひとりごと 

仕事を処理する上で大事なのが優先順位よりも先に劣後順位をつけることです。

劣後順位とは、やらなくて良い仕事を思い切って捨てることです。

名著『7つの習慣』によると、多くの人が「緊急だが重要でない仕事」に時間を割き過ぎていると言います。

その一方で「重要だが緊急でない仕事」を後回しにしてしまう傾向があると指摘しています。

「緊急だが重要でない仕事」とは、それほど重要でない電話に出ることや無意味な会議に参加することなどです。

「重要だが緊急でない仕事」とは、今後の方針を策定することや、訪問スケジュールを決めることなどが当てはまります。

緊急度と重要度をよく勘案して、まず劣後順位をつけて仕事を減らし、その上で優先順位をつければ、効率的に仕事が処理できるはずです。


【原文】
今人率(おおむ)ね口に多忙を説く。其の為す所を視るに、実事を整頓すること十に一二、閑事を料理すること十に八九。又閑事を認めて以て実事と為す。宜(うべ)なり其の多忙なるや。志有る者誤って此の窠を踏むこと勿れ。〔『言志録』第31条〕


【訳】
最近の人は、たいてい口ぐせのように「忙しい、忙しい」と言うが、普段の行動を観察してみると、実際に重要な仕事を処理し整えているのは、せいぜい十の内の一、二であって、重要でない仕事を十の内の八、九も行っている。また、そうした重要でない仕事を実際に重要な仕事だと思っている。これでは多忙になるのも当然であろう。志をもって取り組む人は、誤ってこのような落とし穴にはまってはならない。


「ものさす」より
http://www.monosus.co.jp/posts/2016/10/114436.html
20161011_01