神坂課長が佐藤部長に呼ばれたようです。
「えっ、私が講師をやるんですか?」
「うん、神坂君に営業マンとしての心得を熱く語って欲しいんだ」
「他に適任がいるような気がしますけど・・・」
「私は神坂君が適任だと思っているから、指名したんだよ。好きなようにやっていいからさ」
「は、はい・・・」
それから数日後、会議室では、2018年度の新卒社員さん4名に対して、神坂課長が話をしているようです。
「皆さんは、自分のことをプロの営業マンだと思っていますか?」
「・・・」
「では、梅田君。プロとアマチュアの違いは何かな?」
「はい。プロは仕事に責任を持っている人で、アマチュアは責任がもてない人でしょうか?」
「なるほどね。間違ってはいないけど、もっとシンプルに言ってしまえば、その仕事で収入を得ている人はプロ、そうでない人はアマということじゃないかな。たとえばプロ野球の世界なら、入団した瞬間からプロ野球選手として認識されるよね。君達だって同じだよ」
新人さん達は目を輝かせて話を聞いています。
「では、その中で一流のプロとはどんな人だろう? 我々の世界でいえば、一流の営業マンとはどんな人のことだろうか? 藤倉君、わかるかな?」
「はい、お客さまから信頼される人でしょうか?」
「なるほど、良い答えだね。では、志路(しろ)君はどう思う?」
「はい、やっぱりやる気のある奴じゃないでしょうか?」
「ははは、『奴』という言葉はやめような」
「あっ、すいません」
「『すいません』ではなくて、『すみません』だろう」
「す、すみません」
「これはあくまで私の答えですから、正解かどうかはわかりませんが、私は、一流の営業マンとは常に結果を出し続ける人だと思っています。つまり毎期毎期コンスタントに計画を達成できる営業マンです」
新人君たちは、懸命にメモを取っています。
「さあ、では、そんな一流の営業マンになるためには、何が必要だと思う? 湯浅君、どう?」
「え、あ、あのー、わかりません!」
「ははは、潔い青年だな。それはね、営業マンとしての志を立てることなんだ」
新人君たちはポカンとしています。
「自分は営業マンとして、この会社でこれをやるんだ!という志が決まっていればね、資料をコピーしたり、トイレの掃除をすることからも学ぶことができるんだよ」
「・・・」
「そして、それよりも勉強になるのは、やはり本を読むこと。読書ほど自分の心に栄養を与えてくれるものはないよ。でもね、志が立っていなければ、読書をしても身につかないんだ」
「す、すみません。でも、自分はまだ志なんてありません」
「梅田君、正直でいいね。そりゃそうだよね。私だって皆さんと同じ新人のときには、志なんてなかったもんな」
「よかった。安心しました。僕だけ志がないのかと思いました」
「湯浅君、君は面白いね。あ、それからね、『自分』とか『僕』は社会人になったら使わないこと。『私』を使うようにな」
「はい」
「ただね、志はまだでも、まずはこの会社でこうなりたいっていう夢を描いて欲しいんだ」
神坂課長はホワイトボードになにか書き込んでいます。
夢 = For me 「(私が)○○になりたい」「(私が)○○したい」
志 = For you 「誰かのために○○になりたい」「誰かのために○○したい」
「まずは、会社の中で実現したい夢をひとつ考えて欲しい。志路君はどんな夢を描いたかな?」
「はい、私は社長になりたいです」
「おお、いいね。そういうのでいいんだよ。みんなも考えてごらん」
第1166日へつづく。
ひとりごと
実は、この研修内容は、小生が新卒社員さん向けに最初に話をする内容を再現したものです。
プロとしての意識、そして夢を持つことの大切さを伝えようと試行錯誤しながら続けきた研修です。
あすも引き続き研修の中身をお楽しみください。
【原文】
緊(きび)しく此の志を立てて以て之を求めば、薪を搬(はこ)び水を運ぶと雖も、亦是れ学の在る所なり。況や書を読み理を窮むるをや。志の立たざれば、終日読書に従事するも、亦唯だ是れ閑事のみ。故に学を為すは志を立つるより尚(とうと)きは莫し。〔『言志録』第32条〕
【訳】
志を強く心に抱いて、それを追求しようと心掛けるならば、たとえ薪や水を運ぶような仕事であっても、そこから何かを学ぶことができる。まして読書したり物事の道理を究明するならば、それ以上の学びを得ることができるのは当然である。しかし、志が立っていなければ、一日中読書をしたとしても、無駄なことである。つまり、学問をするには(仕事をすることも同じ)、まず何よりも志を立てること(立志)が大切なのだ。

