今日の神坂課長は、新卒社員さん4名をランチに誘ったようです。


「では、午前の研修はここまでにしましょう。ちょっと早いけど、近くにおいしい定食屋さんがあるからみんなで行こう」


「神坂くーん」


「ああ、相原会長。どうしました?」


「あれ、もう研修終わっちゃったの? なんだ、神坂君がどんな無茶を言ってるか聞いてやろうと思って来たのに」


「か、会長! 新卒社員さんの前で人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。彼らは会長と違って純粋ですから、そういう話も信じちゃうじゃないですか! そうだ、ちょうどいいタイミングです。これからランチに行くので、会長もご一緒してもらえませんか」


「おお、いいね、いいね。行こう!」


6人は会社近くの定食屋さんに入ったようです。


「まだ12時前なのに、すごい人だね。座れてよかったよ」


「ここは大人気店ですからね。12時超えてから来たら30分以上は待つことになりますよ」


しばらくして、6人分の本日の定食が運ばれてきました。
今日はかきあげ丼定食のようです。


「うわぁ、旨いですねぇ」


「いいね、梅田君。そういう反応をしてくれると、連れてきた甲斐があるよ」


「みんな初々しくていいねぇ。神坂君にもこういう時があったのかなぁ」


「当たり前じゃないですか! 誰だって最初はこうですよ」


「記憶にございません」


「とうとうボケてきたのかな、このお爺さん」


「ぶっ。神坂課長、会長に向かってそんなことを言っても良いんですか?」
藤倉君が驚いて吹き出しました。


「神坂君は新人のときから口の効き方をしらない青年だったよ。でもこう見えても、礼儀正しいところもあるんだよ」


「お二人は仲がよろしいですね」


「君は湯浅君だったかな。そう、会社では私が神坂君の上司だけど、プライベートでは神坂君は、私の競馬と競艇の師匠なんだよ」


「会長、そういう情報はマイナスイメージの上塗りなんですけど」


「でもね、神坂君は新人時代から積極的だったな。先輩から言われたことは何でもまず実行していたよね。若いうちはどんどん失敗しろって言ったら、本当に毎日とんでもない失敗をしてきたもんな」


「毎日は大袈裟ですよ」


「ただ、神坂君は二度と同じ失敗はしないんだ。それが不思議で彼の日報を読んでみて驚いたよ。神坂君は常にしっかりと準備をしているんだよ」


「それでも失敗してしまうものなのですか?」


「君は、志路(しろ)君だったかな。そう、所詮は社会人一年生だ。準備のレベルがやはり先輩とは違うからね、抜けはあるものだよ。でもねそうやって自分なりのベストを尽くしているから、失敗したときにすぐに軌道修正ができるんだ


「同じ失敗を繰り返す人というのは、準備不足の人だということですね」


「おお、君はなかなか優秀だな。でも、頭で理解しただけでわかった気になっては駄目だよ。実行してこそ物事は理解できるものだからね」


「はい」
志路君は真面目にメモをとっています。


「そんな神坂君だからこそ、3年目でトップセールスになれたんだろうな」


「凄いですね! 神坂課長は、3年目でトップになったんですか?」
梅田君が驚いています。


神坂君の凄いところは、新人の頃から、万全の準備をして即実行するという積極性をずっと維持していることだよ。ベテランになると、仕事に慣れてくるから、次第に準備が疎かになるものなんだが、神坂君は違う。君達の研修だって、適当に話しているように見えるかも知れないけど、かなり準備していると思うよ」


「適当に話してませんから!」


「佐藤君から君達の研修を任された日から1週間は、夜のお誘いを全部断っていたからね」


「もう、その辺にしてください。けつの穴がムズムズしてきました。でも、相原会長も凄い人だぞ。もう80歳だっていうのに、こうやって新卒の君達と積極的に交流して、名前もしっかり覚えてしまうんだからな」


「おい、私はまだ73歳だぞ」


「あれ、そうでしたっけ?」


「わざとらしいな。でも、そのとおりでさ、老人になったらついつい楽な方を選んでしまうようになるから、少しでも若い人と話をして、若い人のパワーを分けてもらうようにしているんだよ


「今日のお二人のお話は、会社に入ってから今日までで一番勉強になりました」


「おいおい、梅田君。じゃあ、私の研修は?」


「あっ」


「まあ、いいや。会長、私の競馬の講師料はここの御代で結構ですので、よろしくお願いします」


「そうくるだろうと思ったよ」


「はい、ではみなさんご一緒に、せえの!」


「ご馳走様でした!!」


ひとりごと 

若い社員さんには、失敗を恐れず積極的に行動して欲しいものですね。

しかし、準備もせずに無計画に行動させていては、失敗した場合でも、その要因を正しく分析できません。

行動する前に、しっかりと考えさせることだけは習慣づけていきたいところです。

また、ベテランになると、今度は慣れから準備を疎かにする傾向もあります。

若い社員さんはベテラン社員さんのように、ベテランは若手社員さんのように、考えて行動する習慣をもたせたいところです。


原文】
少年の時は当(まさ)に老成の工夫を著(あらわ)すべし。老成の時は当に少年の志気を存すべし。〔『言志録』第34条〕


【訳】
血気にはやる若者時代は、慎重さが必要なため、あたかも老人のように万全を期する。老年を迎えたら、心まで老いないように、若者の気概を持つようにすべきである



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