今日は2年生トリオの石崎君、善久君、願海君が仕事を終えて、飲み会をしているようです。
「最近、俺が今一番困ってるのはさ、カミサマと本田さんのアドバイスが微妙に違って、どっちに従えばいいのか迷うところなんだよね」
「それは分かるなぁ。僕も新美課長と清水さんのアドバイスが真逆だったりして悩むことがあるよ」
「あの二人は、キャラも真逆だから大変だねぇ。でも、カミサマと本田さんならそんなに違わないんじゃないか?」
「善久、そうでもないよ。この前、ノー残業デーの日に、カミサマから『お客さまに迷惑がかからないなら、途中でもなんでも仕事を切り上げてさっさと帰れ』って言われてさ」
「カミサマが言いそうなことだ」
「それで、俺もデートの予定があったから、サクッと帰ろうとして片付けてたらさ。本田さんが、『お前、仕事はキリの良いところまでやってから帰った方がいいぞ』って言うんだよ。それで帰りづらくなって、結局そのまま残業をして、仕事を終わらせて帰ったんだ」
「それは難しいな。そのまま本田さんも仕事をしていたんだろう?」
「そうそう、だから帰るに帰れなくなった。そういう時は、どっちに従えば良いんだろうな?」
「カミサマは上司なんだから、上司の指示に従えば角が立たないんじゃないか?」
「だけど、俺は本田さんにいろいろ教えてもらってるからなぁ。そう簡単に割り切れないよ」
「そうだなぁ、『誰が言うかより何を言うかを大切にしろ』なんて言うしな」
「願海はそういうときはどう対応しているんだよ」
「うん、すごく難しいと思うんだけど・・・」
「何だよ、何か言いにくいことでもあるのか?」
「いや、二人の話はどちらに合わせるかとか、どうやったら角が立たないかとか、すべて判断基準が相手本位になっている気がしたんだよね」
「どういうことだよ」
「結局、自分自身の判断の軸が確立していないから迷うんじゃないかな」
「判断の軸?」
「つまりさ、残業に関していえば、神坂課長は『お客さまに迷惑をかけるかどうか』という判断基準を持っているんだよね。本田さんは、『仕事はキリのいいところまでやり切る』という基準で動いているんだろう」
「そうだな」
「それに対して、石崎はどんな軸を持つかじゃないかな。神坂課長もしくは本田さんと同じ軸を持つのか、まったくそれとは別の軸を持つのか」
「なるほどな」
「まずは先輩の意見だし、しっかりと聴いて受け留めるべきだとは思うよ。でも、従うかどうかは自分が決めればいいんじゃないか?」
「お前、本当に俺達の同期か? 年齢を誤魔化してない?」
「なんでだよ!」
「じゃあ、願海はあの真逆の二人のアドバイスに対してしっかりとジャッジしているのか?」
「うん、少なくとも自分の軸を大切にはしているよ。まあ、清水さんのアドバイスに従わないと、後で結構厳しい罵声を浴びるけどな」
「お前は、心が強いな。俺なら、毎回清水さんに従うわ、少なくとも表向きは」
「情けないけど、それについては善久に全面的に同意するわ。清水さんを怒らすと怖いからなぁ」
「そうでもないよ。罵声を浴びせた後は意外とカラッとしてるから」
「善久、俺たちは近い将来、きっと願海の部下になる日がくるな」
「たしかに!」
ひとりごと
ビジネスの世界に限りませんが、人は誰しも判断に迷うときがあります。
そのとき、他人からもらうアドバイスで目が覚めたり、眼からうろこが落ちることが多々あります。
ただし、複数の方からアドバイスをもらうと、中には真逆のアドバイスをもらって悩んでしまうことがあるものです。
その時の判断基準を、誰に従うか、どちらの言葉が正しいのかといった形で、自分の外に置いてしまうと迷いから抜け出せなくなります。
まずは経験を頼りに自分の中にぶれない軸を置くべきです。
その上で、アドバイスをくれる人というのは、自分のためを思ってアドバイスをくれているのですから、すべてをありがたく受け留めて、その上で自分の軸に照らして取捨選択すれば良いのではないでしょうか。
しっかりと感謝の意を表せば、採用しなかったとしても大きな問題にはならないはずです。
【原文】
人の言は須らく容れて之を択ぶべし。拒む可からず。又惑う可からず。〔『言志録』第36条〕
【訳】