「神坂さん、もう限界です! やはり雑賀は私の手には負えません!」


「おお、遂にギブアップ宣言か?」


今日は、特販課の大累課長が神坂課長を飲みに誘ったようです。


「あいつは仕事もロクにできないくせに、言い訳や屁理屈だけは当社一のスキルを持ってますよね」


「たしかになぁ。彼は屁理屈のデパートみたいな奴だからな」


「私も私なりにはいろいろとトライはしたんですよ。実は・・・」


「なんだよ」


「以前に佐藤部長に相談したら、もし本当にギブアップなら、雑賀を神坂さんの下に配属すると言われたんです。正直に言って、それは悔しかったので、それからも出来る限りの手は尽くしたつもりなんです」


「おいおい、俺の知らないところで勝手にそういう話をされてたの? 俺は石崎と善久で手一杯な上に、新人君も5月には配属になるから、ご勘弁被りたいなぁ」


「でも、本当に万策尽きた感があるので、いっそのこと神坂さんに相談しようと思って今日はお誘いしたんですよ」


「それで、当然今日はご馳走してくれるんだよな?」


「それは神坂さんのお話次第です」


「マジで! それはプレッシャーだな」


「仕事でプレッシャーを感じないくせに、そういうところでは感じるんですね」


「ゴン」


「痛っ、また暴力だ!」


「はいはい、もう二人はいい大人なんだから、いつまでも子供の兄弟喧嘩みたいなことしないの!」


「ちさとママ、こいつは後輩のくせにまったく先輩を尊敬しないんだよ!」


「尊敬しているから相談してるんじゃないの? ねっ、大累君」


「そうなんですよ。それをわかってくれないんですよ、神坂さんは」


「まあ、せっかくビールも来たし、まずは乾杯しよう!」


「それにしても、雑賀みたいな奴の心を入れ替えることなんてできるんですかね?」


「できるわけないじゃん」


「えっ?」


「他人の心を入れ替えることなんて、誰にもできないよ。自分の子供だって、それは無理だぜ」


「じゃあ、どうすればいいんですか?」


「ぶん殴って、脅してでも言う事を聞かせろ! っていうのが、数年前の俺だった」


「たしかに! あ、殴るのはなしですよ!」


「しかし、恐怖政治には限界がある。所詮、北風は太陽には勝てないんだってことを遅まきながら学んだよ。大累、お前は北風のように無理やり旅人のコートを吹き飛ばそうとしていないか?」


「・・・」


「どんなに北風が風の勢いを増しても、旅人は飛ばされないようにコートを深く着込むだけだよな。だけど、太陽が暖かい陽射しを浴びせれば、旅人は自らコートを脱ぐんだよ」


「なるほど」


「雑賀の心の信頼口座には、大累の信頼貯金はどれくらいあるんだ?」


「はい?」


「人は、自分を認めてくれていないと思っている人の話しはまともに聴かないものじゃないかな?」


「・・・」


「まずは雑賀の心の信頼口座に大累名義の貯金を積み上げることが先じゃないのか?」


「どうしたら信頼貯金ができるのかなぁ?」


「そのためにはな・・・」


「はい」


「聞きたいか?」


「当たり前じゃないですか!」


「よし、わかった。この時点で今日の晩飯代をご馳走することを約束するなら教えてやる」


「せ、せこい! でも、見事に神坂マジックに嵌ったかも? わかりましたよ、全てご馳走します!」


第1171日に続く


ひとりごと

いわゆる問題社員さんというのはどこの職場にも居るものです。

マネジャーの皆さんは日々頭を悩ませながら、なんとか一人前のビジネスマンになってもらおうと悪戦苦闘しているのではないでしょうか?

しかし、無理に他人を変えることはできません!

もし、北風政策を執っているのであれば、大至急、太陽政策に切り替えましょう!


原文】
能く人を容るる者にして、而る後以て人を責む可し。人も亦其の責を受く。人を容るること能わざる者は、人を責むること能わず。人も亦其の責を受けず。〔『言志録』第37条〕


【訳】
人を受け容れる度量のある人だけが、人の欠点を責めたり咎めたりする資格を有している。叱責された人も、そういう人の叱責であれば素直に受け容れるものだ。また、人を受け容れる度量のない人は、人の欠点を責め咎める資格はない。叱責された人も、そういう人の叱責はまともに聞き入れないものだ。



福娘童話集の朗読ページより

http://hukumusume.com/douwa/koe/aesop/09/18a.html


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