今日も神坂課長は、2018年度の新卒社員さん達に研修をしているようです。


「起立! 礼!」
梅田君が号令をかけました。


「よろしくお願いします」


「やっぱりいいね。研修の最初と最後はしっかりと挨拶をして終ろうな。気持ちが引き締まるでしょう」


「はい」
4人の返事が若々しく響きます。


「ただねぇ・・・。今、皆さんが起立したときに、椅子をしまった人がひとりも居なかったんだよね」


「・・・」


「それから、立ち上がって礼をするときには、スーツのボタンを留めて、正しい立ち姿で挨拶をして欲しいな。ただし、スーツの一番下のボタンは留めないのが基本なので、3つボタンのスーツなら上2つ、2つボタンなら上のボタンだけを留めればいいんだ。そして、着席するときには、さりげなくボタンを外すこと」


「全然知らなかったです」
湯浅君が関心しています。


「それから、これは今はあまり守られていないんだけど、スーツのフラップは室内ではポケットの中にしまい、屋外では外に出すのが正しいマナーなんだよ」


「フラップって、このポケットの蓋みたいなものですか?」


「志路君、そのとおり。フラップとはまさにポケットの蓋なので、屋外でポケットに埃が入ることを防ぐために付いているんだよ。だから、フォーマルなスーツにはフラップはないだろう?」


「たしかにそうですね」
藤倉君も関心しています。


「君たちは、これから営業マンとしてたくさんのお客さまと接することになる。その時に一番大事なのは、どんな第一印象を与えるかだ」


4人はみなフラップをポケットの中にしまっています。


「お客さまは自分の施設を担当する人がどんな人なのかを第一印象で判断するものなんだ。第一印象で無礼な印象や不潔な印象を与えてしまうと、それを払拭するのは大変だぞ」


「はい」


「髪をボサボサに伸ばしたり、靴が汚れていたりといった基本中の基本は当然のこととして、今指摘したボタンやフラップについては、お客さまでも知らない人もいるだろう。しかし、だからこそ、知っているお客さまから見れば、『おお梅田君はマナーをしっかり理解しているなと思ってもらえるんだ」


「ワクワクしてきたな」
梅田君のひとりごとです。


「さて、湯浅君」


「は、はい」


「もちろん身だしなみを整え、マナーを守ることはとても重要ですが、場合によってはそれよりも重要なものがあるんだけど、何かわかるかな?」


「何だろうな? あ、元気ですか?」


「そうだね、それも重要だ。君達新人さんが先輩社員に唯一勝てるものがある。それが若さだ。若さの象徴は元気さにあるからね。明るく元気に挨拶ができることは大切なことだよね」


「はい」


「ただ時々、馬鹿みたいにデカイ声で入ってくる営業マンがいるけど、あれは駄目だ。その空間に合わせた適切なボリュームというのがある。それを身につけないと、ただのうるさい営業マンだと思われてしまう」


「あ、俺それ気をつけないとな」
志路君です。


「志路君は、スポーツは何かやっていたのかい?」


「大学では野球部でした」


「なるほどな。野球のグランドなら、どれだけ大きな声を出しても、大きすぎるということはないからね。しかし、室内は違うぞ」


「はい」


さて、元気さ以外で大事なことがあるとすれば何でしょう? みんな、藤倉君を見て気づくことはないかな?」


「ああ、笑顔ですね!」


「梅田君、正解! 営業マンにとって、笑顔に勝る武器はないんだ。皆さんは、明るく元気に笑顔でお客さまの前に立って欲しい。藤倉君は研修の間ずっとニコニコしているよね。そして話を聞きながら、うなずいたり、メモをとったりしている。私にはとても良い第一印象を与えたよ」


「うれしいです!」


「今日は第一印象について話をしました。皆さんに勘違いをして欲しくないのは、テクニックでお客さまの第一印象を操作することはできないということです。作り笑いが見抜けないほど、お客さまの目は節穴ではないからね」


「・・・」


「心から、『お客さまに会えて嬉しいお客様のお役に立ちたいと思えるように・・・」


「しっかり準備をするのですね」


「おお、湯浅君。乗ってきたね!」


「はい!」


「声がデカイ! 空間をよく認識しような」


一同、大爆笑です。


「それでは今日はここまでにしましょう」


「起立! 礼!」


4人は立ち上がると、すぐにボタンを留めました。


「ありがとうございました!」


ひとりごと

たしかに、第一印象というのは意外と相手を正しく見通しているのかもしれません。

とくに、言葉ではなく外見から入ってくる印象は正直なものです。

そういう意味でも、正しい所作や身だしなみは、新人のうちにマスターしておきたいところです

外部研修なども活用して、よい第一印象を与える社員さんづくりを進めましょう。


原文】
人の賢否は、初めて見る時に於いて之を相するに、多く謬(あやま)らず。〔『言志録』第39条〕


【訳】
人が賢いか否かは、最初に視た時の印象というものが、大概は正しいものだ。




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