今日は喫茶コーナーで、営業部の佐藤部長と特販課の大累課長が談笑しているようです。


「この前、例の件(雑賀さんの教育に関すること)で神坂君からいろいろアドバイスをもらったらしいね」(詳細は、第1170日・1171日をご参照ください)


「えっ、なんでご存知なんですか?」


「ちさとママから聞いたよ」


「ああ、なるほど。目から鱗が落ちるとは、ああいうことを言うのですね。正直に言って、神坂さんからあんな的確なアドバイスをもらえるとは思っていませんでした」


「ははは。神坂君は今、マネジメントが面白くて仕方がないみたいだね」


「元々、セールスとしては凄い人でしたから、いつも背中を追いかけて、追いつけずにいました。でも、マネジャーとしてなら追い抜けるかも知れないなんて思っていたんですが・・・」


「さらに差がついちゃった?」


「はい。今は背中が見えなくなるほど遠くに行ってしまいました。でも、尊敬の念を新たにしました」


「ちさとママも驚いていたよ。あれが以前の神坂君と同じ人物だとは思えないってね。(笑)」


「神坂さんからいろいろとアドバイスをもらったんですが、とにかくメンバーに好き嫌いの感情を持つなと言われたんです」


「なるほどね。『好き嫌いの感情を持つと、人を正しく観ることができなくなる』と一斎先生も言っているよ」


「そうなんですね。でも、本当にそのとおりですね。あれから、雑賀と真正面から向き合ってみたんです」


「素晴らしいじゃないか」


「朝、手にしていた本について聞いてみたら、すごく嬉しそうに話をしてくれたんですよ」


「ほお」


「それでお恥ずかしいことなんですが、その日の夜、あいつと初めて差しで飲んだんです」


「そうか、一度もなかったんだね」


「ええ。あいつ、色々と話をしてくれました。あいつは若い時にお父さんが亡くなって、母親と二人でずっと暮らしてきたらしいんです」


「そうだったな。たしか最近はお母さんの体調もよろしくないんじゃないか?」


「ああ、部長はご存知だったんですね。私は、全然知りませんでした。あいつが突然休んだり、定時後にさっさと帰るときは、すべて母親の体調が悪いときだったんです」


「そうだったのか。素直に言ってくれれば良いのにな」


「そう言いました。そしたら、あいつとしては、仕事よりも母親を優先している自分が恥ずかしかったんだそうです」


「何も恥ずかしいことはないのになぁ」


「ええ。でも、確かにウチの会社は、神坂さんにしても、新美にしても、清水や本田にしても、みんな仕事第一みたいなキャラクターが多いじゃないですか」


「そうかもしれないな」


「それが恥ずかしくて、つい斜に構えた態度をとってしまっていたらしいんです。そのうちに、私があまり相手にしなくなってしまったので、あいつにはそれがすごく悲しかったそうです」


「彼には社内に相談できる人がいないのかな?」


「同期入社の子はすぐに辞めてしまったので、そういう人は居ないみたいですね。あいつ、神坂さんと私の関係をすごく羨ましく思っていたんだそうです」


「私からみても君達の関係は微笑ましいもんね」


「ありがとうございます。それで、あいつは私とそういう関係になりたかった、って言うんです。あ、すみません」
大累課長は堪えきれず涙を拭ったようです。


「だから大累君には特にああいう言い方をしていたんだね」


「はい、それなのに私はそれを理解せずに、本気で腹を立てていました。そのうちに、あいつが嫌いになっていたんです」


「それは、彼の言い方にも問題が多かったからやむを得ない面もあるよ」


「だから、私はあいつに言いました。『お前は、今までどおりのお前でいい。これからは俺が絶妙なリアクションで返すから』って」


「素晴らしいことじゃないか」


「そうしたら、あいつもこう言ったんです。『いえ、私も態度の悪さや言い過ぎた面がたくさんあったことには気づいていました。私も気をつけますので・・・』」
大累課長がまた涙を拭いました。


「『これからは私の相談に乗ってください』って」


佐藤部長ももらい泣きをしているようです。


「部長。考えてみれば神坂さんは、私の失礼な言葉にも上手に対応をしてくれていたんですよね。それなのに私は自分と同じようなことをしている雑賀の気持ちをまったく理解できていなかったんです」


「いいじゃないか。それに気づいて、雑賀君としっかり話ができたんだから」


「そうですね。やっぱりあの人は私にとって本当に神様なのかも知れないですね」


ひとりごと

反抗的な態度をとる社員さんにも、必ず何か理由があります。

小生がマネジャーに成り立ての頃は、この物語の大累課長のように、まずは相手を力づくで押さえ込もうと試み、それができないと教育を放棄するという駄目上司でした。

しかし、問題児と呼ばれる人は大概、家庭環境や育った環境に影響を受けているようです。

A・アドラー博士はこう言っています。

「同じ環境に育っても、人は自分の意思で、違う未来を選択できるのだ」

こちらが心を開いて辛抱強く話を聞く姿勢をとり続ければ、きっと違う未来を選択してくれる日がくるはずです。

楽天的だと言われようと、そういうスタンスでメンバーに接するリーダーでありたいものです。


原文】
愛悪(あいお)の念頭、最も藻鑑(そうかん)を累(わずら)わす。〔『言志録』第40条〕


【訳】
人と接する時は好悪の感情を交えてはいけない。
好悪の感情が入れば、人を客観的に正しく見ることができなくなる



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