「おーい、ガンちゃん。お待たせ!」


「遅いよゼンちゃん。あれ、ザキは?」


「また寝坊じゃないのかな? もう置いていこうか!」


「そういう訳にもいかないよ。だいたい、ゼンちゃんも遅刻だからね!」


今日は仲良し2年生トリオで海に行く約束をしたようです。


「あ、失礼しました。ねぇ、ガンちゃん。いつものことだけど、難しそうな本を読んでるねぇ」


「ああ、これ? 『南洲翁遺訓』だよ。いま西郷どんブームじゃない。それで、西郷隆盛の本を買ってみたんだ」


「大河ドラマか、全然興味ないんだよね。どんなことが書いてあるの?」


「この本は、西郷さんの晩年の言葉をまとめた語録集なんだけどね。感動する言葉がたくさん載ってるよ」


「たとえば?」


「そうだね。『人生で何度も辛くて苦しい思いをしてこそ、その人の志は強固なものになる』とか、『自分は良い仕事ができているなどとうぬぼれている人の周りからは、立派な人はみんな離れていってしまう』とか、『命も、名誉も、役職も、お金も要らないというくらい私欲のない人じゃないと大きな仕事はできない』とか、勇気をもらえる言葉がたくさんあったよ」


「おーい、ガンちゃん、ゼンちゃん。ごめーん。目覚ましがぶっ壊れてた! 昼飯は奢るから許してちょ!」


「ザキ! 大遅刻の割には軽い登場だよな」


「何を話してたの?」


「ガンちゃんがまた難しい本を読んでたから、内容を教えてもらってたんだよ」


「ガンちゃん、そんなに本ばかり読んでどうするつもりなの?」


「どうするって、仕事に活かすために決まってるじゃないか!」


「仕事に活かすねぇ。そういえば最近、カミサマが本を読めってうるさいんだよ。本を読むときは、自分の経験に照らして読むのが効果的だと言ってた。今度のプロジェクトはお前にとっては大きな財産になるから、本をたくさん読んで実践に活用しろ、とも言われた」


「神坂課長は優しい人だね」


「優しくなんかないよ。ちょっとウザいよ」


「とかなんとか言いながら、ザキは結構カミサマを崇拝しているんだぜ」


「ふ、ふざけるなよゼンちゃん。あんなおっさんを崇拝するわけないだろう!」


「そういえば、以前に3人で本を回し読みしようと決めたのに、全然できてないよね。僕は二人に、何冊か本を渡してるのに、こっちには全然回ってこないじゃん!」


「え? そんな約束したっけ、ゼンちゃん」


「さ、さあ、どうだったかな?」


「お前ら、知らないぞ。今年の新人君はなかなか優秀だから、そんなんじゃすぐに追い越されてしまうぞ!」


「まあ、堅い話はそれくらいにしてさ。早く海に行こうぜ。できればナンパして、かわいい女の子もゲットしたいしな」


「ザキは彼女いるじゃないか!」


「いや、昨日別れた」


「え、なんで?」


「いやさ、彼女から借りてた本を間違ってブックオフに売っちゃったんだよ・・・」


「あー! さてはザキ、僕の本も売っただろう!」


「ガンちゃん、これから海に行くんだ。海のような広い心で人に接し給え」


「ゼンちゃん、ザキを置いていけばよかったな」


「だから言ったじゃん」


ひとりごと 

インプットなくしてアウトプットなしです。

読書によって貴重な疑似体験を積むことができます。

本を読むときは、自分の体験に引き寄せて読み、実際に仕事をするときは、本で学んだことを実地の場面で活かしいくべきだ、と一斎先生は教えています。

これがまさに活学ですね。


原文】
経を読む時に方(あた)りては、須らく我が遭う所の人情事変を把(と)りて注脚と做(な)すべし。事を処する時に臨みては、則ち須らく、倒(さかしま)に聖賢の言語を把りて注脚と做すべし。事理融会(ゆうえ)して、学問は日用を離れざる意思を見得するに庶(ちか)からん。〔『言志録』第140条〕


【意訳】
経書を読む際には、自身の実体験に即して読むべきである。また事を処理する際には、先ほどとは逆に、聖人や賢人の言葉を活かすべきである。学問をする際には、知識と実践の双方を重んじ、常に日常を離れないという意識をもっておくことが重要である。


【ビジネス的解釈】
本を読む時は、自分の経験に照らして読むと得るものが多い。逆に、なにか事を処理する際には、本で読んだ内容や立派な人の言葉を参考にすると良い。読書(インプット)と実践(アウトプット)は常に一対のものであるから、読書は常に実践を目的としたものでなければならない。


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