営業部の佐藤部長が神坂課長のデスクに大量の資料を抱えてやってきました。
「神坂君、カタログ棚を整理してたら懐かしいものが出てきたみたいだよ」
「おお、これはO社さんの内視鏡のカタログですね。かなり古い物もありますね」
「これはガストロカメラと言って、先端にフィルムを入れて写真を撮るタイプだね。さすがに私がこの仕事を始めた頃には、もう市場で目にすることはなかったけどね」
「これはファイバースコープですね。今でもまだ使っているご施設も若干はありますが、ほとんど見かけませんね」
「そしてこれがEVIS200のカタログだよ。1990年に発売したこのO社のビデオシステムが電子内視鏡の土台を作ったんだよな」
「私はこっちのEVIS240シリーズ以降のシステムしか販売したことはないです。それにしても貴重なものが出てきましたね」
「うん、一部ずつ残して大切にファイルしておこう」
「こうやって過去の内視鏡のカタログを見てみると、O社さんの先人の努力の上に今の内視鏡医療の進化があるんだということがよくわかりますね」
「まったくだね。内視鏡を使った低侵襲医療の歴史に携わってきたことは、私自身にとっても喜びだよ」
「確かにそうですね。O社さんが作った内視鏡をこの地区で独占的に販売させてもらえたのは、佐藤部長も含めた当社の大先輩たちの努力のお陰です」
「そして、これからの歴史は神坂君たちがまた引き継いで築いていくんだよ!」
「はい、精進します」
「昨日、神坂君が言っていた『機会』を捉えるために、一度内視鏡の歴史を学び直してみることも良いことかも知れないね」
「バック・トゥ・ベーシックですね。最初の頃は、盲目的にフラッシュを焚いて写真を撮り、その後で現像して胃の内部を観察したんですよね?」
「そうだよ。と言っても、私もその時代のことは詳しくは知らないけどね」
「かつては診断のためのツールだった内視鏡が、今では治療のツールとしても欠かせなくなりましたね」
「それはそのまま、当社のお客様である長谷川先生や中村教授らのご研究の成果でもあるね」
「はい、偉大な医師の先人達にも敬意と感謝を表したいです。そして、次はどういう方向に進んでいくんでしょうね?」
「AIが診断に入ってくることは間違いないだろうね。過去の膨大な画像データを学習すれば、人間の目よりも正確に病変を捉えることができるだろうから」
「なるほど。より客観的な診断が確立していくんでしょうね」
「病変を早期に発見し、早期に治療できれば、医療費を抑えることができるからね」
「あるいは、病気にならないような工夫もされていくんでしょうけど、そこに我々医療機器屋の入り込む余地はありますかね?」
「いわゆる『未病』というものだね。これこそが最大の医療費抑制になるからね。しかし、医療機器屋にだってチャンスはあるかも知れないよ。既成概念に囚われないようにしないとね」
「そうですね。これからの内視鏡医療の歴史づくりに、私自身も参加できるんだという強い覚悟で精一杯精進していきますよ」
「きっとチャンスは我々の目の前にも落ちているはずだよね。それを拾うか拾えないかは私たちの努力次第なんだろう。チャンスをタイムリーに掴みとって、更なる成長を目指そうね!」
ひとりごと
今の自分が活きた歴史を創っているのだ、という認識をもつことは非常に大切ですね。
歴史といってもいろいろあります。
身近なところでは自分の会社の歴史でしょう。
先人たちが築いてきた歴史を大切にしながら、変化の芽を捉えて、新たな歴史を築いていく。
実は歴史を築く上でのポイントは、過去をもう一度学びなおすことなのではないでしょうか?
【原文】
古往の歴史は、是れ現世界にして、今来の世界は、是れ活歴史なり。〔『言志録』第143条〕
【意訳】
過去の歴史の上に現在の世界があり、未来の社会は過去の歴史を活かして作り上げるものである。
【ビジネス的解釈】
先人の仕事が今を作り、今現在の我々の仕事がこれ以降の歴史を築いていく。