営業2課の本田さんが神坂課長のデスクに相談に来たようです。


「課長、Y社の中西さんがN共立病院の商談で一緒に組まないかと打診してきました」


「へぇ、何故なの?」


「おそらくT社さんがこの商談で病院との契約拡大を狙っていますので、そこを叩き潰そうということだと思います」


「なるほど、敵の敵は味方ってことか」


「はい。最近T社さんはこの地域での業績拡大を図って、かなり大胆な行動に打って出ていますので」


「そうだよな。我々としても全国的にも巨大なT社がこの地域に進出してくるのは好ましくないよな。それで、一緒に組むというのはどういうことなの?」


「Y社さんとウチでメーカーさんを押さえてしまおうという作戦のようです。たとえば内視鏡ならO社さんはウチが見積りを出して、Y社さんがF社さんの内視鏡の見積りを出す、といった感じで、ナンバー1・2のメーカーさんを押さえようということですね」


「なるほどな。しかし、会社の規模でいえば圧倒的にウチより大きなY社さんに飲み込まれてしまうリスクはないのかな? その中西さんという人は信頼できる人なの?」


「そこなんですよ。実は中途入社で1年前にY社さんに入社した人物で、私もまだよく把握できていないんです」


「それは怖いな。一緒に会ってみるか?」


後日、2人はアポイントを取ってY社さんに来たようです。


「しかし、いつ見てもデカイ社屋だなぁ」


「圧倒されますよね」


2人は応接室に通されたようです。


しばらくすると、営業本部長の橋本さんと担当の中西さんが入ってきました。


「ああ、神坂さんじゃないの。お久しぶりですね」


「橋本さん、長らくご無沙汰しており申し訳ありません」


名刺交換の後、4人は今回の商談に関するディスカッションを始めたようです。


「とにかく今ここでT社さんがこの地域に入ってくると、地元のディーラーは軒並み価格競争に巻き込まれてしまうでしょう。そうなると短期間に収益を大幅に落とすことになり、中には持ちこたえられない企業も出てくることになるでしょうね」
橋本本部長が神坂課長の顔を見ながら発言したようです。


「今回は、ある程度価格面でも対応をしないとT社を叩けないので、ウチも思い切った価格を出します。結局、客は安いところからしか買いませんからね」
これは中西さんの発言です。


「そんなこともないと思いますよ。もちろん価格は大きな判断基準ではあるでしょうが、それだけではないはずです。やはり、我々の日ごろのサービスも含めて買って頂いていると信じていますがね」


「神坂さん、そんなキレイごとじゃ、これからは生き残れませんよ! 価格を下げなければ土俵にも乗れない時代ですよ。ねぇ、本田君」


「・・・」
本田さんは無言のまま神坂課長を横目で見ました。


神坂課長はこぶしを強く握りしめていたようです。


結局、その後も喧々諤々と議論をしたようですが、結論は持ち越しとなりました。


「生き残れないのは、ウチじゃなくて御社かも知れませんよ」
玄関を出た後、Y社の社屋を振り返って神坂課長はこんな独り言をつぶやいたようです。


「えっ、何ですか、課長?」


「いや、なんでもない。今回の件は断ろう。橋本さんはまだしも、中西さんはまったく尊敬できる人物ではなかった。お客様を客と呼んだり、安くなければ買わないと言ったり、ビジネスの基本ができていない。それに口の利き方や態度の横柄さも鼻についた。我々は独自路線でいこう!」


「はい。異存はありません!」


「敬意を基準にビジネスを判断するということは、とても重要なことだね。俺たちはいつでも敬意をもって仕事をしていこうな!」


ひとりごと 

一箇の敬は、許多の聡明を生ず。

敬意を持つと人は賢くなるのだ、と一斎先生は言います。

自然に人を敬することができるようになると、自分に近づいてくる人が誠の敬意を持っているのか、打算的な虚偽の敬意なのかが分別できるようになるのでしょう。

敬意を持つと聡明になるというのは、非常にインパクトのある言葉ですね。


原文】
一箇の敬は、許多の聡明を生ず。周公曰く、汝其れ敬して、百辟(ひゃくへき)の亨(きょう)を識(し)り、亦其の不亨の有るを識れと。既に已に道破せり。〔『言志録』第156条〕


【意訳】
敬は、人を非常に聡明にする。孔子が敬愛した周公旦は、成王の育成役であったころ、成王に対して「あなたは人に対して慎みをもち、諸侯の貢物を受ける場合と受けてはいけない場合があることを理解してください。」と言った。これこそ聡明さの極みであると。


【ビジネス的解釈】
人に敬意を持つことは、その人を聡明にする。人を敬することは、自分に近づいてくる人の誠(本心)を見抜く力を与えてくれる。ビジネスパートナーと組む場合には、互いに敬愛できるかどうかを基準とすべきである。


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