会社始まって以来の大きなプロジェクトである医療情報システム構築の進捗会議を終えた営業部特販課の雑賀さんと営業2課の石崎君は、若手の善久君、願海君、藤倉君を誘って一緒に夕食をすることになったようです。


「まずは乾杯するか、お兄さん、生4つとウーロン茶ひとつ!」


「あ、私はお酒はダメなので、ウーロン茶2つにしてください」


「そうか、藤倉は下戸だったな」


「雑賀さん、本当にお酒を飲まないんですね」
石崎君が驚いています。


「そう宣言したじゃないか。もう酒は懲り懲りだよ」


「雑賀さん、僕たちを疑っているんですか? 少しくらい飲んだって、密告したりはしませんよ」


「石崎君、君は腹黒い男だねぇ。先輩を陥れようとしているのか?」


「だから、信頼してくださいよ。私はそんなちっぽけな男じゃないですよ」


「ザキ、その言い方、カミサマそっくりだな」
善久君がからかいます。


「ふ、ふざけるなよ! ゼンちゃんは何か勘違いをしているよね。俺はね、カミサマのことを上司として敬意を尽くしているだけだよ。人間的には尊敬できる人じゃないよ」


「そうかなぁ」
善久君はニヤニヤしています。


そこに飲み物が運ばれてきたので、5人は乾杯をして食事会がスタートしたようです。


「ところで若者諸君。君たちは健全な性行為をしているかい?」


「ぶーっ」
藤倉君がウーロン茶を噴き出しました。


「食事会が始まって最初の話題がそれですか?」
願海君が驚いています。


「だって、楽しい飲み会じゃないか。仕事の話なんかしても仕方がないだろう?」


「それはそうですけど、いきなり性行為って!」
善久君も呆れ顔です。


そのとき、


「やぁ、悪い、悪い。遅くなっちゃったな」


神坂課長と大累課長がやってきました。


「え、聞いてないですよ、神坂課長が来るなんて!」


「お前はダチョウ倶楽部か! そんなに俺が来るのが嫌か」


「そういうわけじゃないですけど・・・」


「お前のプロジェクトについては、最小限の口出しに留めて我慢しているんだからさ。せめて激励させろよ!」


「実はね、この食事会は、神坂さんと大累さんの奢りなんだよ」
雑賀さんが説明してくれました。


「そうなんですか、そういうことなら喜んで。あ、ゼンちゃん。さては知ってたな!」


「なんのこと?」


2人の課長も加わって、食事会はよりにぎやかになったようです。


「はぁ? 最初の話題が性欲かよ! まあ、お前らしいと言えばお前らしいが、いきなり凄い話題だな」


大累課長が雑賀さんにいつもの厳しいツッコミを入れます。


「やっぱり飲み会の席で一番盛り上がるのは女の話じゃないですか!」


「実は、性欲のコントロールというのは仕事の成果に直結するんだぞ」


「神坂課長、どういうことですか?」


「なんだ、善久。興味津々のようだな」


「おい、ゼンちゃん。彼女もいないのにそんなこと聞いてどうするんだよ!」


「うるさいな!」


「一般的にいって、ビジネスマンが本当に大きな仕事ができるようになるのは40歳以降だと言われている。気力も体力もある20代、30代のうちに時には無理をしてでも小さな成果を積み上げておかないと、40歳以降に世の中のお役に立つような仕事はできないんだ」


「それと性欲とどういう関係が?」


「あせるな、善久。人間も俺のように40代になると、まず体力が落ちてくる。多くのスポーツ選手が40代前半までに引退することからも、それはわかるよな」


「ええ」


「佐藤一斎先生はな、『体力が衰える40代以降も妄りに性欲を漏らしているようでは大きな仕事はできないし、人間的な成長も期待できない』と言っているんだ。つまり、それまでに精一杯遊んでおけということだな」


「そういうことですか? 私は『言志四録』は読んだことがないですけど、40代以降は特に慎め、という意味で、若いときも性欲は慎むべきものと言われているんじゃないですか?」
大累課長の鋭いツッコミです。


「えっ、そうなのかな? まあ、どっちにしてもだ。若いうちにたくさん恋をして、健全な性行為を営むことは必要なことだ」


「強引な締め方ですね」


まじめな願海君からのツッコミで、一同は大爆笑のようです。


(食事会は明日も続きます)


ひとりごと 

人間教育において性欲の問題は、決して小さなものではないはずです。

精液というのは、生命のエッセンスであるから、それを妄りに漏らすことは命を削ることになるのだ、と森信三先生は言います。

森信三先生は、この他にも性欲の問題について、多くの言葉を残しています。

性欲の問題についての考察は明日も続きます。


原文】
学者当に徳は歯(とし)と長じ、業は年を逐(お)いて広かるべし。四十以降の人、血気漸く衰う。最も宜しく牀弟(しょうし)を戒むべし。然らざれば神昏く気耗し、徳業遠きを致すこと能わず。独り戒むこと少(わか)きの時に在るのみならず。〔『言志録』第163条〕


【意訳】
本当に学問を修めている者の徳は年齢と共に進み、学業は年々広がっていく。四十を超えた人は、血気も衰えてくるので、寝室でのことを慎むべきである。そうでなければ精神も気力も衰えて、学徳の達成が覚束なくなる。寝室での慎みは若いときだけの問題ではない。


【ビジネス的解釈】
真摯に仕事に取り組むビジネスマンは年齢と共に仕事の成果も大きくなり、それにつれて人格も磨かれていく。しかし、人間は40歳頃を境に体に衰えが生じる。そこで重要なのが性欲のコントロールである。性欲を妄りにすると、精力も気力も消耗し、仕事の成果も人格も伸び悩むことになる。性欲をコントロールするという慎独の工夫は、なにも若いときだけの問題ではない。


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