今日は同期の二人、営業部の神坂課長と人事部の鈴木課長が「季節の料理 ちさと」で食事をしているようです。


「神坂、俺はこの前、日経さんのセミナーを受けたんだけどな。そのときにある会社が面白いアプリを紹介していたんだよ」


「へぇ、どんなアプリだよ」


「AIと統計学を使って自社の優秀な社員の意識調査の結果を数値化し、新卒社員の採用の際に同じ調査を実施して、数値の近い人材を採用するというアプリなんだけどな」


「なんか良さそうじゃないか?」


「神坂、本当にそう思うか?」


「え、何で?」


「そもそも引く手数多の大手企業ならたくさんの学生さんが押し寄せるから、そのアプリを学生さんの選別に使うのには良いかも知れないよ。でもな、ウチみたいな小規模な企業に訪れる学生さんなんてほんの少数だぜ。調査をしたら期待する数字をはじき出す学生がひとりも居なかった、なんてことだってあり得るだろう」


「ああ、なるほどな」


「それよりももっと心配なのは、そんなことをしたら同じような傾向や性質をもった社員さんばかりが集まることになるだろう。同じような意識の人間だけで動く組織は確かに強いかも知れないが、一旦間違った方向に楫を切ったときもあっという間だぜ」


「たしかにな」


「そして最大の問題は、いわば今流行の『多様性』を無視することになるんじゃないかってことだ。いろいろな考え方や性格をもった人が集まるのが本来の集団なはずだろ。そういう中でお互いがお互いを認め合い、時には間違いを指摘してもらいながら、組織も人も成長していくんじゃないのかな」


「鈴木、お前は凄いな。たぶん俺ならそのアプリの話を聞いて、すぐにデモしてくれって頼んでたと思うよ」


「だいたいさ、そんな調査をウチに入れてみろ。お前みたいなキャラは100%はねられるだろう」


「どういう意味だよ!」


「お前にその調査をしたら、おそらく『社会的不適合者』という診断が下るだろうからな」


「そこまで言うか、同期の友人に。そもそもお前はその社会的不適合者と同じ大学出身者だからな」


「そうだったっけ?」


「ちさとママ、こいつに茄子の漬物を出してやって!」


「ぶざけるなよ。俺がナスが大の苦手なのを知ってるくせに。そうだ、ママ。こいつに玉ねぎの丸焼きでも出してやって!」


「えー、そちらのお客様。ウチのお店は、お客様にお料理を楽しんでもらうことを使命にしておりまして、嫌いなものを無理やり食べさせてお金を頂くようなシステムはとっておりません!」


「ママ、わかってるよ。冗談、冗談」


「でも、今の鈴木君の話、とっても共感したわ。だって、会社に不要な人材なんて居ないはずじゃない! 不要だと思うのは、それを使いこなせない上司の責任だと思うな」


「おお、その話。雑賀をしっかり使いこなせない大累に聞かせてやりたいな」


「そういえば、佐藤さんは昔よく部下の悩みをここで話してくれたな」


「ブッ」


「汚ねぇな、神坂。なにやってるんだよ」


「だ、だって、その佐藤部長を悩ませていた部下ってさ、俺のことでしょう?」


「そうよ、でも私は神坂君に感謝しているの」


「え、何で?」


「もし神坂君が佐藤さんを悩ませてなかったら、佐藤さんがこのお店に来ることはなかったと思うから」


「なになに、その話詳しく聞かせてよ」


「いつかね!」


ひとりごと 

企業において、優秀な人材を獲得することは極めて重要です。

しかし、一度採用した後に、早計に優劣を判断することはいかがなものでしょうか?

採用して仲間となった社員さんであれば、何とかして一人前に育てあげていくこともまた、企業の重要な使命ではないでしょうか?

リーダーは、いまいるメンバーがベストメンバー、という意識を常に持ち続けるべきです。


原文】
世に小人有るも亦理なり。小人は小知すべく、不賢者は其の小なる者を識るす。是れ亦天地間是の人無かる可からず。或いは謂う。堯舜の民、比屋(ひおく)封ず可しとは、則ち過甚だし。但だ唐虞の世、小人有りと雖も、皥(こうこう)として自得し、各おの其の分に安んずるのみ。〔『言志録』第175条〕


【意訳】
世の中に小人物がいるのにも理由がある。小人物は知識が乏しく、愚者は小人物を知って助け合うものだ。世の中にはこうした小人物も必要である。ある人は「堯舜の時代の人民は皆大名に封ずることができるほど立派であった」と言うが、これは大きな誤りである。堯舜の時代には、小人物があっても、みな広大自得しており、各人が自分の分を知り、そこに安んじていたのである。


【ビジネス的解釈】
会社の中にはやや能力が劣る者もいるが、彼らの存在もまた重要なのだ。「ウチの会社には優秀な人材が少ない」と嘆く者があるが、これは大きな間違いである。皆が優秀にみえる組織というのは、上に立つものが立派で、下にいる者は上長を尊敬し、自分の役割をしっかりと果たしている組織なのだ。


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