大手医療機器メーカーH社で経営トップの交代劇が起きたようです。


「まるでドラマのような社長交代劇だな」
新聞を読みながら、神坂課長がいつものように大きな声で独り言をつぶやいています。


「H社さんですか?」
新美課長がとなりの島から反応したようです。


「新美、そうそう。いわゆるクーデターってやつだよな」


「解任された川並社長は昔からワンマンで有名でしたが、H社を今の規模にまで拡大したのは間違いなくあの人ですから、今回の件は驚きました」


「H社内では、いわゆる川並派と専務の杉本さんの一派との確執がかなり露骨だったらしいな。ネットニュースにはそのドロドロした内情を赤裸々に語った社員の話が載っていたよ」


「川並さんとしてはしっかり周りは固めているつもりだったのでしょうが、内部から寝返った役員が多数いたようですね」


「嫌だねぇ。徒党を組んで争うなんていうのは、俺の辞書には書かれてないからな」


「そうでしょうね。神坂さんの辞書には、相手が戦闘機であろうなんだろうと、竹槍で突っ込めって書かれているんですよね」


「新美、お前最近、言うことが大累に似てきたな。さては、大累派に引き込まれたな」


「勘弁してくださいよ。そんな派閥はないですし、そもそも私は神坂派ではないですから」


「神坂派か。今俺が派閥を作ろうと声をかけたら何人がついて来るかなぁ」
神坂課長が営業2課の面々に顔を向けると、全員が目を伏せました。


「課長、ゼロみたいですね!」
石崎君が嬉しそうに言いました。


「こらガキ、お前は強制的に神坂派に入れるからな」


「絶対嫌ですよ、しょっちゅう派閥の長の尻拭いをさせられるじゃないですか!」


「ちっ、この前、お前の尻拭いをしてやったのをもう忘れたのか!」


「あっ・・・」


「お前には多数の貸しがあるからな」
神坂課長はニヤリと気味の悪い笑顔を浮かべています。


「こわっ。マジで寒気がした。出かけてきまーす」
石崎君は慌てて出掛けました。


「神坂さん、ウチの会社は小さな会社ですし、そういう心配はないでしょうね」
新美課長が話を戻します。


「そう思うけどなぁ。平社長は徒党を組むようなタイプじゃないからな。川井さんは若干その気(け)はあるかも知れないけど・・・」


「役員は、相原会長、平社長、川井室長以外は社外ですしね。会長はそういうことには興味がなさそうですし、まあ心配はないでしょうね」


「でも、H社の事例から学ぶことがあるとすると、トップは権力や圧力だけでは人を押さえ込めないということだろうな。やっぱり人間力で率いていくトップでなければならないんだろうな」


「企業トップだけでなく、我々ミドルマネジャーもそうですね。人間力を高めて、下に派閥を作られるようなことがないように務めていく必要があります」


「そうだな。ところで、新美。もし俺が派閥を作るとなったら、もちろんお前は神坂派に入ってくれるんだよな?」


「神坂さん、冗談でもそういうことは言わない方がいいですよ。まあ、そんなことはないという前提で今の質問に答えるとすると、相手によりますね。もし、神坂派と対抗するのが、大累派なら、なんかどっちも同じような気がするので、先輩の神坂さんについて行くかも知れませんが、もし対抗するのが佐藤部長だったら、私は迷わず佐藤派につきますよ」


「お、ズルいぞ。佐藤派ができるなら、俺はそこのナンバー2は譲らないからな」


「神坂さん、みんなが白い目でこっちを見てますよ」


「あっ、ホントだ。皆さん、朝から失礼しました」


ひとりごと 

人間は社会的動物ですから、仲間はずれにされることを極端に嫌います。

それが、派閥を生む大きな要因なのでしょう。

勤務先に派閥があるような場合、どの派閥に所属するかは自分の将来に大きな影響を与えるという意味で、慎重にすべきでしょう。

しかし、少なくとも派閥がない会社にいるなら、自分から派閥を作るような人間にだけはならないようにしましょう。


原文】
方は類を以て聚(あつま)り、物は群を以て分(わか)る。人君は国を以て党を為す者なり。苟くも然る能わざれば、下各おのの自ら相い党せん。是れ必然の理なり。故に下に朋党有るは、君道の衰なり。乱の兆なり。〔『言志録』第176条〕


【意訳】
善い方向に向かう者は善い者同士集まり、悪い方向に向かう者は悪い者で集まる。すべて善い者は善い者ばかり、悪い者は悪い者ばかり、群をなして分かれる。君主は国民をひとつにまとめている。かりにもそのように出来なければ、民は勝手気ままに徒党を組むようになることは、当然の理であろう。つまりは民が党派を組んでいるようでは、君主の道が衰え、国が乱れる前兆であるといえよう。


【ビジネス的解釈】
人間は同じ傾向をもった者同士で徒党を組みやすい。経営トップは組織をひとつにまとめるべきであるが、下にいくつもの派閥が出来ているようでは、経営は首尾よくいかず、企業は衰退の道を辿ることになる。


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