「神坂君、最近調子が悪いよね」


「相原会長が私のことを師匠と呼ぶようになってからのような気がします」


「おいおい他人のせいにしてはダメダメ。真摯に受け取って改善を図らないと」


「そこだけ聞くと説得力がありますが、所詮ギャンブルの話ですからね!」


今日の神坂課長は、相原会長と一緒にナイター競艇を楽しんでいるようです。


「しかし、ギャンブルというのは不思議なもので、当りだすと次々に当るんですよ。締め切り1分前に滑り込みで買った馬券が大当たりしたり、買いそびれた馬券が見事外れていて、買わなくて良かったとなったり」


「ところが運気が悪くなると、滑り込みで買った馬券が外れて、買えなかった馬券が当ったりするよね」


「はい。直前で買い目を変えたら、元の買い目が来てしまったりもします」


「ゴルフでもそういうことがあるね。番手を変えたら飛びすぎたり、届かなくて池ポチャになったり」


「会長はお上手ですから、良いときと悪いときがあるのでしょうけど、私はゴルフに関して言えば、常に最悪です。そもそも練習不足ですから、悪くなると手の打ち様がないんです」


「この前、雨の中でゴルフをしたときのスコアはいくつだったの?」


「125です。パーを1つ取っていてそれですから・・・」


「それは酷いなぁ」


「せめてそのプレー費だけでも今日取り返したいと思っていましたが、火に油を注ぐ結果となりそうです」


「そういう欲を持つとだいたいダメだよね」


結局、今日は二人とも3レース勝負をして、ひとつも当てることができなかったようです。
そのまま二人は相原会長の自宅そばのお寿司屋さんに場所を移しています。


「先ほどの話だけどね。考えてみれば、仕事も同じじゃないのかな。ずっと好調が続くこともなければ、ずっと悪いということもないでしょう」


「そうですね。もちろん、そのために色々と工夫をするというのが前提でしょうけど」


「松下幸之助さんが、『不況またよし』と言っているように、調子の悪いときこそ、真の原因を探って、根本的な手を打つチャンスなんだろうね」


「ところが私のようなお調子者は、好調のときはつけ上がり、不調になると他人のせいにしてしまいますから、好調も不調も長く続かないんですよね」


「さっきもギャンブルの不調を僕のせいにしたもんね!」


「あれは、ジョークですよ。そういえば、『論語』にこんな言葉があるんです。『不仁者は以て久しく約におるべからず。以て長く楽におるべからず』。つまり、凡人というのは、長く逆境にいることもできなければ、順境にいることもできない、という意味ですね」


「神坂君が『論語』を語るとはね!」


「サイさん(西郷さん:元営業1課課長で今年定年退職した同僚)の読書会で教えてもらった言葉です。私にピッタリです!」


「長く逆境にいることはできない、というのはどういうこと?」


「自暴自棄になったりして、そこから逃げ出してしまうという意味です。本来はそこで耐えて、自分に矢印を向けて改善を図るべきなのに、他人のせいにして、やけになってしまうのが凡人の性ですよね」


「なるほどね。仕事もそうだし、人生もそうだと思うけど、うまくいくときもあれば、まったくダメなときもある。悲しみと喜びは交互にやってくるものだよね。だから、嬉しいときは調子に乗らずに自分を慎み、悲しいときには明日笑えることを信じて、耐え忍ぶことが大切だよね」


「はい、上期は全社的に売上計画を達成できずに終わりました。下期は、まずしっかりと原因を分析して、やるべきことを明確にし、それをみんなでやり切ります!」


「君達ならやってくれると信じてるよ!」


ひとりごと 

小生の大好きなビリー・ジョエルの曲『Say Goodbye to Hollywood』という曲の歌詞にこんな歌詞があります。

Life is a series of "Hellos" and "Goodbyes"
(人生は「やあ」と「あばよ」の連続さ)

出会いがあれば別れがあり、良いときがあれば悪いときもある。楽しいときもあれば、悲しいときもある。

しかし、実は楽しさの中に悲しさが宿っており、悲しさの中に楽しさが宿っているものです。

やるべきことをやって、楽しいときが少しでも長く続くように手を打っていきましょう!



原文】
吉凶、理を以て之を言えば、君子は常に吉にして、小人は常に凶なり。気を以て之を言えば、流行有り対待有り。盛衰迭(たが)いに至るが如きは、是れ流行なり。憂楽あい耦(ぐう)するは、是れ対待なり。〔『言志録』第202条〕


【意訳】
吉凶については、道理を言えば、君子は常に吉であり、小人は常に凶であるといえる。気の面から言えば、流行と対待がある。盛んな時もあれば衰える時もあるのが流行である。悲しいことと嬉しいことが共に対立して現れるのが対待(たいたい)である。


【ビジネス的解釈】
ビジネスがうまくいっている人は吉凶で言えば吉であり、うまく行っていない人は凶であろう。何事も盛衰はあるし、悲喜交々(こもごも)入り混じりながら進んでいくものだ。それらを受け入れ、自制できるかどうかが重要である。


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