今日の神坂課長は、高校のクラス会に参加しているようです。


「この前、ウチの会社の同期でリーダーをやっている奴が、自分にはリーダーは務まらないから降ろさせてくれと上司に嘆願したんだよ。情けない奴だと思わないか?」
大手企業に就職して、現在は営業課長として関西エリアを統括している中島さんの言葉のようです。


「それなら最初からリーダーを受けなきゃいいじゃないか。そいつの下についた部下の社員さんが可愛そうだよな」
神坂課長はその話を聞いて怒りを露(あらわ)にしています。


「中島の会社は大企業だから、温室育ちみたいな人間が多いんじゃないのか?」
同じテーブルの河合さんです。


「いまどき、大企業とか中小とかはあまり関係ないんじゃないか。人の上に立つことの意味を理解せずに、ただ給料が増えるからとか、世間的に見栄えが良いからという理由で安易に職を受けてしまうんだろう」
もうひとり同じテーブルの和田さんが発言したようです。


「でもな、俺はまさにそういう理由で今の課長職をありがたく拝命したんだ。それはそれで良いんじゃないか? ただ、いざ実際に人の上に立つと思い通りにいかないことばかりだよな。そこで挫けてしまう心が問題なんじゃないのか?」


「神坂の言うとおりかもな。リーダーたるものは『先憂後楽』でなければダメなんだろうな」


「え、どういうこと? 中島、説明してくれよ」


『先憂後楽』つまり、天下の憂(うれい)に先んじて憂い、天下の楽(たのしみ)に後(おく)れて楽しむ、ということだよ」


「メンバーよりも先に心配事を見つけ出して処理し、メンバーよりも後に仕事がうまく行ったことを喜ぶ、って感じかな?」


「河合の言うとおり。神坂、お前の好きなジャイアンツの以前の本拠地は後楽園球場だったよな。あの後楽という言葉はそこから来ているんだぜ」


「そうなのか! やっぱり中島は頭が良いから、色々なことを知ってるよな」


「でもさ、実際に中間管理職になった俺たちがそんなことを愚痴っていたら、後輩たちはリーダーになりたがらなくなってしまうんじゃないか?」


「和田、そこがリーダーの辛いところさ。つねにメンバーの前では笑っていなければならないのがリーダーの在り方なんだろう」
河合さんです。


社内で愚痴を言うのはまずいから、こうして社外の集まりがあったときに思い切り愚痴を言い合って、スカッと忘れるのも良いのかもな」


和田さんがグラスを一気に飲み干しながらつぶやきました。


「俺はそういうのもあんまり好きじゃないな。たしかに、愚痴は何も生まないし、何も解決しないから良くないけどな。弱気な姿をメンバーに見せることは良いんじゃないか? リーダーだって普通の人間だからな。ただし、どんなに悩んでも落ち込んでも、諦めないという姿勢だけは失ってはいけないと思う」


「神坂らしいな。でも、そうかもな。リーダーが絶対に失くしてはいけないのは、諦めない心なのかも知れない。一緒に悩み、一緒に泣いて、一緒に苦境を乗り越えていくという組織の方が日本人には合っている気がするな」
中島さんがまとめてくれました。


「よし、仕事の話はこの辺で終わろうぜ。二次会はカラオケで久しぶりにバカ騒ぎしようじゃないか!」
宴会部長の和田さんが元気にこぶしを突き上げたようです。


ひとりごと 

リーダーはメンバーよりも高い見地から物事をみて、問題となりそうな要因を先手で解決することが求められます。

まさに先憂後楽で、最初に憂いて、後で笑うのがリーダーの在り方なのでしょうか。

しかし、いつも格好良くなくてもよいのではないでしょうか?

メンバーと一緒に落ち込み、一緒に泣いて、それでも諦めずに前へと足を踏み出す姿を見せることができれば、メンバーはついてきてくれるはずです。


原文】
天下の憂、一身に集まるは凶に非ずや。天下の楽(たのしみ)、一身に帰するは吉に非ずや。天下の楽を享くる者、必ず天下の憂に任ずれば、則ち吉凶果たして何の定まる所ぞ。召公云(いわ)く、疆(かぎ)り無く惟(これ)休(よ)けん。亦疆り無く惟恤(うれ)えんと。〔『言志録』第203条〕


【意訳】
天下の憂鬱な出来事を一身に集めることは、凶と言ってよいだろう。天下の楽しみを一身に集めることは、吉と言ってよいだろう。然し天下の楽しみを享受する者は天下の憂いを解決すべき責任がある。そうだとすれば吉凶はどこにあるというのか。周の成王に仕えた召公は「王が天命をうけて天子となるのは、限りなくよろこばしいが、天下の責任を担う点で、限りなく憂いなのだ」と云ったが天下を治めようとする者は「天下の楽しみを楽しみとし天下の憂いを憂いとする」ということであろう。


【ビジネス的解釈】
楽すれば吉、窮すれば凶と単純に割り切ることはできない。真の楽しみは憂いを解決した後に生まれるものだからだ。大役を受けることは光栄であるが、重責を全うしなければならないというプレッシャーに打ち克たねばならない。

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