今日の神坂課長は、営業部の佐藤部長と同行して、お得意先回りをしているようです。


神坂課長がハンドルを握りながら、助手席の佐藤部長に話しかけています。


「昨日、タケさんと飲んだんですけどね。お互い年をとったせいか、身体のことや親のことばかりが話題になるんですよね」


「ははは。特にタケさんは私と同世代だからね。神坂君はまだ早いんじゃないの?」


「まあ、タケさんに引っ張られたのはあるでしょうけど、やはり親のことは気になりますね」


「神坂君はご両親とも健在なんだもんね。大事にしないとね」


「はい、昨日タケさんにも散々言われました」


「そうか、それはごめんね」


「いや、ありがとうございます。私は親不孝なところがあるので、それくらい言われて当然です」


「ご両親やご先祖様があってこその自分が居るわけだからね」


「はい。親父は中卒で働いて、息子2人を育ててくれました。母も自分のことは後回しにして、子供を常に一番に考えてくれていました。今思えば、感謝しかありません」


「今度は神坂君が子供さんに感謝される父親にならないとね。私は残念ながら子供がいないから、佐藤の血は姉が産んでくれた子供達に託すしかないんだ」
佐藤部長が寂しそうにつぶやきました。


「奥様はお若くして亡くなられましたもんね。ところで、部長。再婚はされないんですか?」


「おお、いきなり凄い質問だね。相手がいないし、年齢も年齢だよ。寂しい老後を過ごす予定だよ」


「ちさとママがいるじゃないですか! お似合いだと思うけどなぁ」


「ママも結婚する気はないよ。お互い、子供がいないことは凄く後悔していることなんだよ」


「そうなんですか。私は幸いバカ息子二人に恵まれましたから、やつらにもなんとか結婚して子孫を残して欲しいですね」


「それには神坂君が親父の背中をしっかり見せるしかないよ!」


「はい。責任重大です。さっきバカ息子って言いましたけど、まず私がバカ親父ですからね」


「ははは。わかってるなら安心だ」


「部長!」


「でも、同じことは会社にも言えるよね。当社は平社長が創業者だからまだ生まれたばかりの会社だけど、西郷さんやその他の先輩のような既に当社を去った先人たちの尽力のお陰で今があるんだからね」


「ああ、そうか。確かにそうですね。これから100年、1000年と続く会社になってくれたら嬉しいですね」


「そういう意味で先人への感謝と敬意を忘れないようにしないといけないね」


「相原会長もそろそろ引退したいなんて言ってますけど、まだまだ元気なうちは会社に残って欲しいですよね」


「そうだね。会長を引き止められるは神坂君しかいないかもね」


「そんなことはないでしょうけど、会長の話は本当に勉強になります」


「そして、我々がオーケストラの指揮者のように、メンバーそれぞれを引き立たせながら、最高のハーモニーを奏でられるように指揮棒を振っていかなければならないんだろうね」


「そうでした。先人に感謝しつつ、精一杯指揮棒を振っていきます!」


「でも、やり過ぎないでね!」


「肝に銘じます!」


ひとりごと 

会社が家族の延長だと捉えるなら、会社の先祖ともいえる先人たちの尽力にも感謝と敬意を表す必要があるのではないでしょうか?

そして今会社を背負っている我々の背中をみて、後輩たちが会社の歴史を引き継いでいきます。

正しい在り方をDNAとして残していく使命がいま働いている我々にあるのです。


原文】
吾れ静夜独り思うに、吾が軀(み)の一毛・一髪・一喘・一息、皆父母なり。一視・一聴・一寝・一食、皆父母なり。既に吾が軀の父母たるを知り、又我が子の吾が軀たるを知れば、則ち推して之を上(のぼ)せば、祖・曾・高も我れに非ざること無きなり。逓して之を下せば、孫・曾・玄も我に非ざること無きなり。聖人は九族を親しむ。其の念頭に起る処、蓋し此に在り。〔『言志録』第212条〕


【意訳】
私は独り静かな夜に考えてみるのだが、自分の毛髪も呼吸も皆父母のものであり、視たり聴いたり寝たり食べたりすることもやはり父母のものなのだ。我が身が父母のものであり、また我が子の身体も我が身であるとわかれば、さらに想像するに、祖父も曾祖父も高祖父も私自身であり、孫も曾孫も玄孫も皆私自身なのだ。聖人は九族に親しむという。聖人が想起しているのは、こういうことであろう。


【ビジネス的解釈】
自分のこの身体について独り静かに考えてみると、わが身というのは先祖から脈々と受け継がれてきたものであり、またわが子から子孫へと脈々と受け継がれていくものであることがわかる。同様に、自分が勤める(あるいは経営している)会社も先人の努力によって今があり、我々の努力によって後輩へと引き継がれていく。ご先祖を敬う気持ちをもって先人達への敬意を表すことも忘れてはいけない。


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