今日の神坂課長は、就業後に喫茶コーナーで、新美課長の相談を受けているようです。
「神坂さん、ウチの営業1課は、神坂さんの2課に比べると最後のひと踏ん張りができなかった気がするんです」
「新美、それは前期の話か?」
「ええ、2課は最後の2週間で5千万円くらい上積みしたじゃないですか。1課はほぼプラスマイナスゼロでした。何かそこにマネジメントの違いを感じるんですよ」
「経験の差だよ。なんて偉そうなことを言いたいけど、それは正直に言うと、自分でもよくわからないな」
「そうですか。実は、佐藤部長が神坂さんに聞いてみろとアドバイスをくれたんです」
「えっ、ということは、俺のやり方になにか秘訣があると部長は見ているんだな」
「そうみたいですよ」
「ははは。せっかく部長がそう言ってくれているのに、本人が気づいていないんだからお笑い種だな」
「でも、神坂さんらしいです」
「お前、馬鹿にしているのか?」
「違いますよ! 意識しなくても自然とマネジメントが出来ているということじゃないですか。動物的な勘みたいなものですかね?」
「おい、それはやっぱり褒めてはいないと思うぞ」
「せっかくですから、この機会に分析してみましょうよ。期末の追い込みの時期には、いつもどんなことを意識しているんですか?」
「うーん、あらためてそう聞かれるとなぁ・・・。そうだな、メンバーに気持ちよく仕事をしてもらおうとは思ってる。だから、最後の2週間は特に自分が行きたい施設、取り組みたい仕事を優先させている」
「具体的に教えてください」
「営業マンなら誰でも新規開拓が必要だろう。でも、飛び込み営業というのは、結構心が折れることが多いじゃないか。だから期末は、自分のお得意様、懇意にして頂いているお客様を徹底して訪問して来いと指示している。それが結果につながるのかどうかは分からないけどな」
「なるほど。メンバーがなにをやりたいかを察して、それをやらせているんですね」
「そうだね。ただウチのメンバーも若い奴が多いから、一年中そういう訳にはいかないよな。だから、せめてラストスパートの時は、そうさせてやろうと思ってな」
「神坂さんのそういう配慮は凄いですね。尊敬します」
「うん、素直でよろしい。あっ、それから俺のポリシーというか、ずっと大切に思っていることなんだけどな。メンバーのプライベートを出来る限り理解して、いまどんな環境でどんな心境なのかということは、常に把握するように意識している。そのためにしつこいくらい雑談はするな」
「ああ、それは私がリーダーになるときにも神坂さんから言ってもらいましたね。最近、忘れがちでした。もう一度、その辺りからメンバーとの心の交流を始めます」
「お役に立てましたでしょうか?」
神坂課長はニヤニヤしながら自動販売機に目線を送っています。
「あっ、コーヒーでよろしいですか?」
ひとりごと
故ピーター・F・ドラッカー教授は、以下のように言っています。
個人の価値観と組織の価値観で、両者にギャップがあるときは、個人の価値観を優先させよ。個人の価値観をないがしろにしていたら達成感は得られない。
組織のメンバーの価値観を知るためにも、日ごろから出来る範囲でプライベートまで含めた現状把握をしておくことが必要なのでしょう。
【原文】
民の義に因りて以て之を激し、民の欲に因りて以て之に趨(おもむ)かしめば、則ち民其の生を忘れて其の死を致さん。是れ以て一戦す可し。〔『言志録』第222条〕
【意訳】
民が自分が正しいと信じていることを理解して、それを激励し、民が何を欲しているかを理解して背中を押すことができれば、民は命を惜しまずに全力を尽すであろう。戦わざるを得ない時はこのように人を使わねばならない。
【ビジネス的解釈】