今日は営業2課の石崎君の営業活動に新人の梅田君が同行しているようです。

「石崎さん、オレの教育担当はなぜ山田さんなのですか?」

「え、なぜと言われても、それを決めたのはカミサマだからな」

「オレは早く一人前になって、担当を持ちたいんです。同期の志路は、清水さんからどんどん一人で行動するように言われているみたいで、羨ましいです。オレはずっと同行ばかりですから・・・」

「焦る気持ちはわかるけど、いま一人で動いたって、得るものはそれほど多くないと思うよ」

「そうでしょうか? 道を覚えるにしても、ハンドルを握ったほうが助手席に座っているより早く覚えるって、神坂課長は言っていました」

「もちろんそうだろうけどね。お客様によっては、新人を担当させるということを良く思わないお客様もいるんだよ。まして、その新人が何も知らなかったり、ミスばかりだったら、出入り禁止だけじゃ済まなくなるよね」

「それはそうでしょうけど・・・」

「山田さんはすごく俺たちのことを考えてくれる人だよ。きっと梅ちゃんが一番成長するように仕事を与えているはずだと思うけどな」

「そうですかねぇ、なんだか雑用ばかり与えられている気がしますが・・・」

「いつも同じ仕事ばかり与えられるわけ?」

「いえ、毎回違う仕事ですが、でもやっぱり雑用が多い気がします」

「毎回違うんだよね。やっぱり山田さんは考えているんだよ。いろいろな仕事を梅ちゃんに与えて、基本を学ばせてくれているんじゃないかな?」

「ああ、そういうことなんでしょうか?」

「きっとそうだよ。それに、その『雑用』っていう言い方だけど、会社の仕事に雑用なんてないと思う。自分で雑用だと思うから雑用になってしまうんだ。俺たち2年目が会議前にどんな準備をしているか見たことあるよね?」

「はい」

「俺たちは、与えられた仕事を上司の期待以上にやってやろうと決めているんだ。机の角をしっかり合わせ、椅子をしっかりとしまい、ホワイトボードはアルコールを使ってピカピカに拭きあげるんだ。コピーだって、角をしっかりそろえてホチキスを留めることを意識している。そこまで徹底すると今まで雑用だと思っていたことが楽しくできるんだよ」

「石崎さん、すごいですね。そうか、オレもそれを聞いたらワクワクしてきました。スーパー単純男ですから、オレは」

「ははは。単純じゃなくて、スーパー素直男なんじゃないかな。そこまで素直な梅ちゃんに嘘はつけないから、正直に言うけど、今の話はすべて同期の願海に言われたことなんだ」(この経緯については、第1160日をご参照ください)

「そうなんですか?」

「うん。俺も梅ちゃんと同じように、毎回毎回コピーをして配布する仕事に嫌気がさして、同期で集まったときに文句を言ったんだ。そしたら、願海がそういうことじゃダメだと諭してくれたんだよ。あいつはすごい奴だぜ」

「そうだったんですね。願海さんはたしかにひとつ上の先輩だとは思えません。なんだかベテラン社員のようなオーラがあります」

「どうせ俺は子供にしか見えないよ!」

「そ、そういう意味じゃないですよ。あー、でもスッキリしました。もっと山田さんからたくさんのことを教わりながら、与えられた仕事に全力を尽くしてみます」

「うん、お互い頑張ろう。今期こそ、売上計画と利益計画のダブル達成をして、カミサマの喜ぶ顔を見たいしね!」


ひとりごと 

国民教育者の森信三先生は、仕事の処理こそが修養の第一義だと言ってます。

それに加えて、こんな言葉を残しています。

「仕事を単なる雑務だと考えている程度では、とうてい真の仕事の処理はできない」

与えた仕事を期待以上に処理する部下を、上司が放っておくはずはありません!


原文】
孟子は、先務を急にし、親賢を急にするを以て、堯・舜の仁智と為す。試みに二典を検するに、並びに皆前半截(はんせつ)は、是れ先務を急にして、後半截は是れ親賢を急にす。〔『言志録』第229条〕

【意訳】
孟子は、知ることよりも自分のなすべきことをやり遂げることが先決であり、衆人を愛するよりも賢者に親しむことが先決であるとして、これを堯・舜の仁や智であるとしている。試みとして『書経』の堯典と舜典を調べてみると、ともに前半では務めを先にすることを、後半では賢者に親しむことを述べている

【ビジネス的解釈】
ビジネスにおいては、まず行動することが先決である。行動した後必要な知識を得ればよい。また、誰とでも親しくするのではなく、高い人格を備えた人に師事して、自分の人間力を磨くべきである。


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