「毎度、S急便です。お荷物お届けにあがりました!」

「ああ、中井さん。おはようございます」

「おお、神坂さん。ちょうど良かった、ちょっと相談したいことがあるんですよ」

「私で力になれるなら、喜んで協力しますよ。今なら時間があるし。喫茶コーナーに行きますか?」

「ありがとうございます。10分くらいでも良いんで、お願いします」
S急便の中井さんと神坂課長の2人は喫茶コーナーに移動したようです。

「どうしたんですか?」

「実はまたマネジメントで悩んでいましてね。俺のチームに、今年5年目になる中堅のドライバーがいるんです。とても真面目な良い奴なんですが、仕事が遅いんですよ。他のメンバーに比べて7割程度の件数しか動けていないんです」

「なるほど」

「俺としては、一人一日100件を目標にしているんです。もちろんお客様の規模や地域差もあるので、個人差が出るのはある程度覚悟しているのですが、問題のドライバーは70件を超えるのがやっとなんです」

「それで、中井さんは、その人にどんな指導をしているんですか?」

「それが俺はこういう性格だから、遠回しに説得することなんてできません。それでストレートになんとしても100件を目指せ!って、やっちゃうんです」

「ははは。まあ、私も同じような性格の人間ですから、よーくわかります」

「そう言ってもらえるとちょっと気が楽になります。ただね、そんな指導をしていたら、最近そいつがどんどん元気がなくなってきて、おまけにミスも増えてきたんです。このままだと辞めてしまうのではないかと心配しているのですが、どうしたら良いかがわかなくて、それで神坂さんに聞いてみたいなと思ったんです」

「そこで、私のことを思い出してくれるなんてうれしいな。まあ、そういう問題はどこの組織でもありますよね。ひとつ聞きたいのは、そのドライバーさんは、確実に70件近くは処理しているんですよね? つまり、アウトプットがゼロやマイナスではないんですよね?」

「もちろんです。ただ、他のドライバーに比べると件数が足りていないんです」

「中井さん、その人が70件を着実に処理してくれるなんて、ありがたいことじゃないですか。その人が居なくなったら、その70件は誰が処理するのですか?」

「それは、残りのドライバーが負担することになりますね・・・」

「そうですよね。社員さんはひとり一人、能力が違うんです。だから、みんなが同じノルマを達成できなくても仕方がない部分があるのではないですか? 70件しか回れない社員さんの問題はどこにあるかをよく把握して、まずは80件を目指してもらう。その代わり、今100件回っているドライバーさんに110件とか120件回ってもらうように個別のノルマを設定してみてはどうですか?」

「それだと、頑張っているドライバーから不満が出るんですよ」

「私は、70件のドライバーさんだって頑張っていると思うんです。ただ、能力の差があるだけで、意欲には差がないのではないかと。だから、メンバーが均等に成果を出すことを考えるのではなく、今いるメンバーの成果の和が100になるように考える。実は、私も以前は中井さんと同じ考え方をしていました。でも、大学の野球部の先輩に今のような話をされて目が覚めたんです」

「そこがマネジャーの腕の見せ所ということですか。よしっ、一度個別面談をして、各自に最適な目標設定ができるように努力してみます」

「きっと結果が出ますよ。中井さんは人間力の高い方なんですから!」

「神坂さん、ありがとう。今度、お礼に晩飯を奢らせてください」

「楽しみにしています!」


ひとりごと 

「頑張っていない人はいない」

小生の友人でねぎらい伝道師を自称し、全国を飛び歩いている兼重日奈子さんは、常々こう言っています。

だから結果ではなく、頑張っているというプロセスに目を向けて、ねぎらう。

褒めなくてもいいから、ねぎらう。

そうすれば確実に人は成長する、と兼重さんは確信しているのだそうです。


原文】
堯・舜の上、善尽くる無し。備るを責むるの言、畢竟難きなり。必ず先ず其の人の分量の至る所を知り、然る後、備うるを責む。然らずんば寧(いずく)んぞ窮極有らん。〔『言志録』第230条〕

【意訳】
堯帝・舜帝の善は尽きることがない。しかし一般的にはそのような備わった状態を求めることは難しい。まずはその人の分際を弁えて、その人に適した善が備わっているかを見るべきである。そうしなければ、責めを受けない人など存在しえない

【ビジネス的解釈】
リーダーは、メンバーの成長に関して理想を持つことは大切であるが、まずは各々の現在の能力をよく把握して、各自に最適な課題を課し、着実に成長させていくことを心がけるべきだ。


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